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●2016年11月某日/禁教の島、野崎島上陸記.02〜廃墟の島〜

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東シナ海に浮かぶ群島、長崎県五島列島。その北の端に浮かぶ無人島、野崎島。
廃墟となった村やかつての天主堂など約20年ぶりに訪問すべく
佐世保港から乗船したフェリーは昨夜、隣接する小値賀島に到着した。
民宿で一夜を明かしいよいよ野崎島上陸当日。やはり最も気になるのは天候。
夜が明けるのを待ちきれず頭上を見上げれるも相変わらず曇天の空。
風は弱まったため、船の欠航はないと思われるが島探検に雨だけは勘弁してほしいもの。


photo:Canon eos7d 15-85mm


二日目

野崎島への船は早朝と午後の一日2便。
7:20の第一便に乗るべく、早朝民宿を出るとリュックや食料を満載したバックをかつぎ船着き場を目指す。2016年現在、野崎島に上陸するにあたっては事前申し込みが必要となっている。そのため一旦野崎島乗り場を通過、埠頭奥にあるターミナルまで歩き上陸手続きを済ませ再び戻って来た。かつてはこのような複雑な工程は必要なくそのまま船へ乗り込めたのだが・・・。


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昔の記憶のままの姿で建つ離島待合所と書かれた船乗り場横に停泊する小さな船が野崎島行きの町営船「はまゆう」。現在の船は今年就航したばかりの3代目とのことなので前回乗った船は退役したらしい。

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それにしても無人島のはずの野崎島になぜ定期航路が存在しているのか。
実は島内には「野崎島自然学塾村」と言った簡易宿泊施設が存在、特に夏場は海水浴やキャンプ目的の来島者がそれなりに存在している。さらに近年、天主堂が世界遺産候補にリストアップされたことが話題となり島への観光客は右肩上がりに急増中だとか。
今回「はまゆう」に乗り込んだのは自分含め三名ほど、やがて船は小値賀島の岸壁を出航した。
平坦な小値賀島の島影がみるみる遠ざかって行く。

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「はまゆう」は海上を飛び跳ねるように進み六島という島に寄港、その後北周りで野崎港を目指している。久しぶりに間近で眺める野崎島はかなりの大きさ。黒々とした原生林に包まれた海にそびえる島の姿はなんだか神秘的。島の写真を撮ろうと揺れる船内を伝い後部甲板に出ると巻き上がった波しぶきを思い切り浴びてしまった。
船室でおとなしくしているとやがて港が近づいたのか船は減速、揺れとエンジン音も治まり静かに港へと入港した。



重いリュックと食料を担ぎ岸壁に降り立った。実に20年ぶりとなる野崎島。
静まり返った港、崩れ落ちた廃屋、人々の記憶から忘れられ朽ちて果てていくこの光景は昔のまま。と思った瞬間目を伺う光景が飛び込んできた。

岸壁奥には荷台に瓦を満載したトラックや小型の重機が停められ廃屋の解体が行われているのか、排出された瓦や木材を始めとするがれきが裏手に山積みされていた。

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時が止まったかのような野崎島で開発が行われてるとは。
意外な光景に驚かされながら設置された工事看板を読めば、野崎島ビジターセンター建設工事と表記されている。当日は作業員の姿は見えなかったものの、後に聞いた話によれば野崎島観光化の第一弾としてビジターセンターはじめ、観光客向けの施設建設、道路整備が急ピッチで行われているという。整備後は軍艦島のように順路が設置され、島内を勝手気ままに歩き回る事もできなくなるのだろうか。ビジターセンター完成予定は冬。いやあ危ないところだった。



戸籍上は1名の島民が登録されているものの、定住されている方ではないため現在は実質人口ゼロの野崎島。
しかし人口650人を数えた最盛期には島内3カ所に集落が存在した。島のほとんどは原生林に覆われた急傾斜地のため集落があるのはわずかな平地に限られる。現在自分が立つ港周辺の野崎集落。くびれた部分にある野首(のくび)集落。そして島の南端にある、舟森集落。

野崎島の地図1611nozakimap2.jpg



共に乗船した他の乗客は北端にある沖の神島神社と王位石を目指すとのことでガイドとともに山方面へと消えて行った。自分はまず港周辺の野崎集落跡を探索。
江戸時代中期に移住によって開拓された野首、舟森と違い野崎集落は島に最も古くから存在したもの。平地が多いため居住にも適し島で規模も最も大きい集落だ。しかし現在は完全に廃村となり集落跡には廃墟となった数多くの住居が取り壊されることなく残されている。


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1977年に国土地理院によって撮影された野崎集落の航空写真。港周辺に民家が密集していることが読み取れる。かつて島で最も栄えたこの場所も現在は森に戻りつつあった。



静まり返った道を歩いていると無人のはずの集落内から物音が響き渡る。振り返るとその正体は野生のシカ。島に生息していた野生のキュウシュウジカは島の無人化後急激に繁殖、かつて人間が生活していた集落内を我が物顔で移動、草むらや廃屋の中で立ち止まりじっとこちらを見つめ続ける。


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閉め切った窓や雨戸が外気や日光を遮断し湿った空気が室内に滞留する影響なのか、一旦人が住まなくなった家屋というものは老朽化が非常に早い。
わずかの雨漏りやカビを見逃さず老朽化は進行し建物はみるみる朽ち果てて行く。木々に覆われた野崎集落中心ではかろうじて外観を残した建物が多かったものの、郊外では完全に崩落したものばかり。かつての暮らしを偲ばせるものは炊事場など土台だけ。直接風雨にさらされる郊外の方が崩壊が早いのか、それともか立ち退き時期の差なのだろうか。


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集落を外れた海際に残された鳥居。
急な石段を上っていくと社殿は完全に倒壊、材木と瓦だけが散乱していた。狛犬だけが立ち尽くしている。キリシタンの島としての知名度が高い野崎島だがこちらの集落は神道中心だったようでこのような神社跡も存在する。 さらに集落を探索したかったものの島は広く次の目的地に向け移動開始。野崎集落は午後、再度訪れる事にしよう。



二つ目の集落、野首があるのは島のほぼ中央のくびれた部分。
現在地の野崎集落跡を抜け、島で唯一の幹線道路を野首集落へ向かい歩き続ける。幹線道路とはいえ実態は軽トラならばぎりぎり通行可能の狭い道。道は海沿いの断崖を避けるよう山の斜面に沿って続くためかなりの傾斜を登っていくことになる。
やがて峠に達すると眼下に澄んだ青い海が広がっていた。断崖が続く島唯一の砂浜、野首海岸。曇天、廃墟。彩度のない枯れ立てた光景が続いていたためこの旅で初めて目にする鮮やかな色。

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左手に海を望みながら峠を越えると傾斜が緩やかになり平地が広がり始めた。野首と呼ばれた集落があった場所。
かつての耕作地らしき荒れた草むらの一本道を下っていくと眼下に平屋の建物が見え始めた。この建物が1985年をもって廃校となった旧野崎小中学校の木造校舎。現在は宿泊施設「野崎島自然学塾村」に改装され素泊まりながら格安で泊まる事ができる。この施設に20年ぶりに宿泊、島で一夜を過ごす予定。



野崎島の廃校1611nozaki0302.jpg
野崎島の廃校1611nozaki0303.jpg
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野崎島自然学塾村1611nozaki0317.jpg



施設内部には廊下、蛇口、下駄箱などかつての学校の面影が随所に残されている。今夜宿泊する部屋はかつての教室跡。厨房で湯を沸かしインスタントコーヒーとパンだけの遅い朝飯。施設では自炊となるため今回は佐世保で購入した二日分の食材を持ち込んだ。



続いて隠れキリシタンが開拓したとされる野首集落跡を探索開始。場所は廃校の真裏となる。
石垣が続く山の斜面、一見棚田か段々畑に見えるこの場所がかつての集落跡。


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かつての集落の様子国土地理院過去写真で見てみよう。
写真が撮影された1977年にはざっと数えただけでも15棟近い家屋がこの場所にあったことがわかる。しかし現在はその全てが姿を消し、形を残しているのは廃校となった小中学校校舎と天主堂だけとなってしまった。

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先ほどの港周辺の野崎集落跡には多くの民家が外観を残しながらかろうじて建ち続けていたものの、野首集落では建物は完全に姿を消し、かつて民家が建っていたことを示すのは散乱する瓦、土台や炊事場だけ。廃墟というよりはむしろ遺跡に見える。
南東に開けた高台の斜面は森の中の野崎集落よりは開放的で明るく、一見住み心地が良さそうに思えるものの実際には土壌も悪く生活は非常に厳しかったようだ。


野首天主堂1611nozaki0319.jpg



遺物が散乱する野首集落跡からはかつて住民が建てたという赤煉瓦が特徴的な教会、野首天主堂が目と鼻の先に見える。
野崎島を訪れたならばやはりこの教会を訪問したい。
一旦は建物へと向かったものの朝から島内徘徊を続けさすがに少し疲れたため、一旦廃校へもどる事にした。
天主堂は後ほど訪れてみよう。

[続く]
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