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●2018年1月某日/受け継がれ続ける大学建築

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国家を代表する最高教育機関として莫大な資金が投入され、
それに見合う凝った巨大建築が作られたため近代建築の宝庫としても知られている旧帝大。
以前このような大学建築巡りを行っていた時期があった。
その際出会ったのが某大学構内にある伝説と化した古びた木造建築。
文化財級の建築物が立ち並ぶ構内で異彩を放つカオスのような空間を再訪、
昭和初期にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を堪能した。

photo:Canon eos7d 15-85mm
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。



冬の某日、底冷えする街を歩き現地に到着、キャンパス内は自由に見学できますと書かれていたので講堂と森が混在する構内を散策。旧帝大だけあって建物はいずれも風格を感じる煉瓦づくりの重厚感溢れるものが多い。
やがて木々の合間に目的の木造二階建ての建物が姿を現した。増改築を繰り返しながら老朽化が進んだ外観、中庭を挟み込むように居住区が設置された区画。木造とはいえ、大阪に存在し足繁く通っていた軍艦アパートのようにも見える。同じ構内に残された近代建築に指定されている建物郡とは対極の異質な空間。



建物は住居として現役で使用されているもの。そのため入り口で待ち続けること数分、中から現れた学生に声をかけ見学、撮影許可をもらう。許可をもらったとはいえ人の住まいでもあるため共用部分だけを控えめに見て回ることにした。

きしむ木造階段、古びた板廊下、板天井、建物は自分が好んで見て回る廃校となった木造校舎のような雰囲気。しかしある一定の時で時間が停止した廃墟とは違い、古びた張り紙上にビラが次々と張りつけられているようここでは現在進行形で歴史が積み上げられていく。

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あまりに古びた構造にも関わらず、現在でもそれなりに住人はいるようで、通路沿いに並ぶ部屋からはかすかな生活音が聞こえてくる。室内にキッチンはないのか、廊下に置かれた錆び付いたコンロで湯を沸かす学生がいたので挨拶。見学者は珍しくはないのか特に驚きもせず「ああどうも」という返事。



近代建築の宝庫もである旧制大学。
文化財に指定される大学施設は、名高い建築家によって建てられた講堂など贅沢な意匠が施された権威の象徴であるものがほとんどだ。一方こちらはほぼ同時期の建物が現在も使用されている「生きた建築物」にも関わらず、当局からは耐震不足を理由に取り壊し対象指定にされている。

確かに名もなき職人が作った木造建築は煉瓦、石造の講堂に比べれば見劣りするのは否めないし、建物内を歩くと耐震に不安が残ることは理解できる。しかし無機質な講堂と比べ、一見だらしなく感じる昔からの落書き、張り紙など生活感溢れる空間は、大正昭和平成を通した学生世相を後世に残す生き生きとした「生活遺産」だと考える事はできないだろうか。

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壁面一面に貼付けられた張り紙はすでに歴史の一部となったアジビラ的なものから、管理的なものまで様々。定期的に張り替えてられているらしい大掃除などの告知内容を読んでいると建物は一見カオスさを持ちながらも、秩序を持って運営されているように見えた。


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建物の存在を知ったのは10数年前の夏、歴史ある講堂を撮りにこの大学を訪れた際だった。構内の片隅で木々に埋もれた黒ずんだ廃墟のような建物を偶然見つけ駆け寄った。夏休みのためか人の気配がまるでない中庭はジャングルを思わせる一面の緑と蝉時雨に包まれていた。
一転、真冬。人の気配がないのは今日も同じ。季節が替わり中庭は落葉した枯れ葉が降り積もる彩度のない空間となっていた。


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中庭で唯一鮮やかな緑を見せるシュロの木々。その合間を自由気ままに走り回るのは鶏を中心とした様々な種類の鳥の群れ。無造作に転がる空き箱に座り、建物を眺めていると餌を求め近寄ってきた鶏の群れに囲まれてしまった。ここは本当に日本なのか。かつて放浪したアジアの安宿街を彷彿とさせる非日常の空間。

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建物は予想以上に広くまだ奥へと続いているがあまり長居させてもらうのも申し訳ないのでこのあたりで引き上げよう。家賃の安さはあるとはいえ、便利になった2018年においてもこのような生活に身を投じる学生の姿に驚き、いや感動すら覚えてしまった。

取り壊しが噂される建物は今後姿を残すことができるのだろうか。可能であるならば解体ではなく部分補強によって生活感溢れる貴重な雰囲気を後世に残すことはできないものかと強く感じた物件だった。

[了]
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