●2018年8月某日/毛無峠で過ごした夜.星空、花火編
- 2018/11/20 22:30
- Category: マニアックスポット

群馬長野県境にある標高1823mの毛無峠。
かつての鉱山索道が立ち並ぶ峠は日本離れした荒涼とした風景が広がっている。
標高故、夏でも涼しい毛無峠は夏場の車中泊ポイントとしていつも選ぶ場所。
今回も北信越徘徊の途中、日が暮れ始めたため1年ぶりに毛無峠で夜を過ごす事となった。
他の徘徊も併せて紹介。
[2015年嵐の毛無峠]
photo:Canon eos7d 15-85mm
8月某日、うだるような暑さの下界から離れ、草津白根山中の稜線を走り続ける。火山活動の影響で志賀草津道路は通行止となっており大きく迂回を強いられた。支線へ入り木々が途切れると曲がりくねった山道の彼方に緑のクマザザに覆われた平坦な場所が見えてきた。
山に挟まれた鞍部が目的地、標高1823mの毛無峠だ。


ぐねぐねとうねる山道を走り続け午後4時、群馬長野県境またぐ毛無峠に到着。空き地には10台ほどの車やバイクが停められ峠は思った以上の賑わいを見せていた。ダート片隅に車を停め日暮れを待つ。
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既に日が落ちた群馬県側には硫黄を採掘していた小串鉱山跡へと下るつづら折りのダート道が見える。閉山によって小串鉱山がゴーストタウンとなった今、地図上では続いている道も実質的に毛無峠で行き止まりとなっている。



県境の峠を跨ぎ、規則正しく並ぶ錆び付いた「鉄塔」は群馬側の小串鉱山と長野側を結んできた索道と呼ばれる物資運搬用ロープウエーの跡。閉山後、ほとんどの構造物は解体されたが不思議なことにこの索道だけは撤去される事もなく残され、毛無峠のシンボルとなっている。


日が傾くにつれ峠にいた車も一台、また一台と山を下り気がつくと周囲に残ったのは自分の車以外、軽バン一台と2台のバイクだけとなっていた。2人のバイク乗りはテントの設営を始め、どうやらこの4名が今夜、峠で夜を過ごす事を決意したメンバーのようだ。毛無峠でのテント泊はキャンプというよりも野営という言葉が似合う。下界を見下ろす雄大なこの場所でのテント泊にも憧れるが数年前の惨劇がトラウマとなっているため、車中泊を選択。
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今夜の車中泊地を毛無峠に決めたのには涼しくて寝やすいだろうとの考え以外にも理由がある。実は今夜、眼下の某村で花火大会が行われるのだ。嵐にあった3年前のあの夜、いくつかの偶然が重なり尾根同士の隙間から花火を俯瞰する事ができた。打ち上げ場所が変わっていなければ今夜再び花火を見ることができるはず。
とはいえ峠からの視界が開けているという条件付き。昨年もこの場所で車中泊を行ったものの当日は毛無峠名物の濃霧に包まれ花火の炸裂音しか聞く事ができなかった。今年は今のところ峠周辺は霧も見当たらず珍しく晴れ渡り霧も嵐の気配もない。夕飯を食べているうちに太陽が沈み長かった夏の1日は終わりを告げた。



夜8時、先程の改造軽バンの車中泊、バイクのキャンプメンバーと共に村を見下ろす山裾に立ち、遥か眼下に見えるはずの打ち上げを待ち続ける事30分あまり。開始時間はとっくに過ぎているはずだが花火は一向に打ち上がらない。まさか事前情報が間違っていたのか、数年前ここで見た花火は幻だったのか、と諦めかけたころだった。
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わずかな民家のあかりが灯るだけの漆黒の山裾が突如照らし出された。打ち上げ花火の輪が音もなく広がりその十数秒後、遠く離れた毛無峠に破裂音が届いた。

深夜、車のドアを開け外に出ると夏とは思えない冷気が身体を包み込んだ。
風もそして霧もない夜。ここまで静かな毛無峠の夜は初めて。懐中電灯を頼りに岩が転がる斜面を登って行く。灯りを消し、闇に目が慣れると規則正しく並ぶ鉱山索道背景に星空が浮かび上がった。



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翌朝。早朝4時、今年も峠は静かに朝を迎えた。
寝静まっているテントを横目に一人山に登り夜明けを待つ。やがて東の地平線が赤らみ夏の1日が始まった。



山に挟まれた鞍部の峠に朝日が射し込むのにはまだ早いがそろそろ出発するか。シュラフなどの車中泊セットを片付け、ポリタンの水で顔を洗うと毛無峠を後に下界へと下った。
[戸隠参道]
参道が有名な戸隠神社を訪れた。以前から書いているように神社訪問は早朝か小雨の日がおすすめだ。長野新潟県境の樹林帯を走り参道前駐車場に到着したのは朝6時50分。駐車料金は600円。しかし看板に書かれた小さな文字を見て思わず頬が緩んだ。料金がかかるのは朝8時以降と書かれていたからだ。1時間で戻るつもりで鳥居をくぐり戸隠奥社目指し森の中の足を踏み入れた。
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早朝の戸隠参道は混雑とは無縁、たまにすれ違う参拝客同士、例外なく挨拶が交わされるさわやかな参道をしばらく歩くと随神門と呼ばれる重厚な門が現れた。

分厚い苔と植物に覆われた結界のような門をくぐると参道周囲の植栽が原生林から巨大な杉並木へと変化する。巨杉と早朝の逆光気味の斜光の組み合わせが幻想的な風景を作り出す。



それにしても戸隠参道は想像以上に長い。最終目的地奥の院までまだ数キロ。駐車料金の時間を考えるとそろそろ戻る必要がある。奥社か、600円か悩んだ結果、小走りで参道を戻り2分前に駐車場から車を出す事ができた。普段適当な人間だが一旦旅に出ると節約志向になってしまうのはいつものことなのだ。
[嬬恋村丘陵地帯]
キャベツの産地として知られている群馬県嬬恋村。今回はそんな嬬恋村でもあまり知られていない丘陵地形を訪れてみることにした。以前、航空写真で見つけ気になっていた場所。よく知られているパノラマロードから外れ怪しい農道へと入る。森の中を進む事10分あまり、視界が開けうねるような丘陵が広がった。


ゆるやかな地形を覆う緑のキャベツ、農道。昨年訪れた美瑛のような雰囲気。パノラマロードから外れているためか、訪れる車も皆無な静かな丘を風が吹き抜けていた。
[陸奥主砲]
海のない長野県山中に似つかわしいものが残されている。緑に包まれたさわやかなキャンプ場片隅に横たわる灰色の巨大な筒。実は海軍の主力戦艦だった戦艦陸奥の主砲である。海軍艦艇の多くが深海へ沈んだり、あるいは解体された結果、現在触れられるものは数える程しかない。その中で戦艦陸奥は、比較的浅い瀬戸内海へと爆沈したため部品の多くが戦後サルベージされた貴重な存在。

吉村昭氏の「陸奥爆沈」読破後、引き上げられ各地に散在した陸奥のパーツをいつか見たいと思い続けていた。砲身を覗き込むと錆び付いたライフリングの線状がゆるやかな螺旋を描いていた。それにしても主砲がなぜこのような場所に保存されているのかは謎だ。
[ダム巡り]
長野県山中。行きつけの秘境ダム湖。中央アルプスから清流が直接流れ込むダム湖のバックウォーターはいつ訪れても澄み切った水をたたえている。



一方こちらは今まさに建設されようとしているダム。
堰堤建設現場周辺では、転流工、取り付け道路始め深い谷間に人工物の建設が急ピッチで進んでいた。この橋もやがて深い湖底に沈んで行くことになる。
[了]
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