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●2018年10月某日/秋の佐渡島、車中泊四日間/2日目

  • 2019/03/24 22:29
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2010年10月、荒れる日本海を車と共に渡り秋の佐渡島に上陸した。
拘置所跡や廃墟をなど西海岸を重点的に徘徊、北端の秘境、大野亀で日が暮れ佐渡島初日が終わった。
翌朝、海辺の空き地に停めた車内で目を覚まし外の様子をうかがうと山の稜線が白み始めている。
窓から流れ込む明け方の冷気と共に佐渡島2日目が始まった。


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photo:Canon eos7d 15-85mm


今回佐渡に渡るにあたり最も悩んだのが車の持ち込みだった。島といっても広大な面積を持つ佐渡島においては車がないと話にならない。
しかし本土から自車を持ち込むとなるとカーフェリー料金がやはり高い。そのため通常は佐渡島でレンタカーを借りるのがセオリー、前回訪問時はそのようにした。しかし三泊四日という行程上、宿に泊まらず車中泊可能の自車を持ち込んだ方が三泊分の宿代を節約できるのではないか。悩み抜いた上、後者がもとを取れると判断、さらに佐渡汽船がシーズンオフに行う値引きキャンペーンも後押しし、フェリーに車を載せ上陸したのだった。



佐渡島の中央部、二つの山脈に挟まれた島の平野部にある汽水湖、加茂湖。
加茂湖は砂州を掘削、流れ込んだ海水と混在し人工的に現在の姿になったという。さらに遡ればもともとは海水だった成り立ちを持つ湖。

秋の早朝。冷え込みと水温の温度差によって立ち上る湯気に覆われた穏やかな凪ぎ状態の湖面。その畔に木造板張りの小さな小屋が立ち並んでいる。小屋の正体は牡蠣養殖などで使用される舟小屋。その名の通り、小屋は湖と繋がっており内部は漁船を停泊させる格納庫となっている。

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加茂湖舟小屋1810sado0248.jpg
加茂湖舟小屋1810sado0243.jpg


散乱する牡蠣の殻を踏みしめ湖畔の舟小屋周辺を徘徊。
静まり返る早朝の湖畔に殻が割れる音が響き続ける。周囲に散乱する漁具、錆び付いた巻き上げ機、崩れかけた小屋。今は牡蠣漁のシーズンオフなのか、あるいは廃墟なのか。大半の舟小屋は使われている気配がないものばかり。
好きな「小屋」風建物がこれほど一カ所に集中する空間も珍しく長居をしてしまった。やがて湖に朝日が射し込み、佐渡島二日目がスタート。時間が惜しい、すぐに出発だ。


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と思ったらまずは、向かったのは秘境でも、廃墟でもなく逆方向、佐渡島中央部の市街地方面。島といっても人口は5万人あまりを誇る佐渡島は他の離島とは各が違う。中心部には全国チェーンのファミレス、コンビニなど一見本土の地方都市とそれほど違わない光景が広がっている。で朝から向かったのがそんな「市街地」にある全国チェーン、「カメラのキタムラ」である。
実は昨日、日が落ちかけた大野亀の海岸にてカメラのレンズフィルターを落としてしまったのだ。落下地点は運悪く磯のような場所。岩場に落下したPLフィルターはガラス面が無惨にもひび割れてしまった。自分はこのPLフィルターというものをポジフィルム時代から愛用、ないと気分が落ち着かない。マニアックなフィルターだがキタムラならば売っているはず。



駐車場に車を停め10時の開店を待つ。時間が惜しい・・・。開店と同時にフィルターを購入、10080円。四日分の食費に匹敵する出費となった。これだけあれば毎夜車内で食べるコンビニ弁当ではなく地元名産品を口にする事ができたかもしれないというのに。
ここ二年あまり、連続してPLフィルターを失い続けている。八ッ場ダム水没予定地に、青森県竜飛崎の海に落下させ、その都度近隣のキタムラを探しあわてて購入している。我ながら学習能力が欠如しているとしか思えない。

佐渡の地図1811sadomap.jpg

一時間後、今度は佐渡の山中で八方ふさがりの状態となった。

山中に残ると言う廃墟を目指し森の中、車で進み続けた狭いダート林道。突如現れた舗装工事によって行く手を阻まれてしまった。正確には随分前に「この先工事中」と書かれた看板を見かけたのだが万一の場合、引き返す転回スペースぐらいあるだろうと高を括っていたのが悪かった。カーブを曲がったとたん前触れもなく現場が現れた。工事は本日は休工中、徒歩用の通路は確保されているが、路面が塗り立てのアスファルトで覆われ車の通行は不能。
最大の誤算は工事現場手前に現れるはずと勝手に期待していた転回スペースが一切ないことだ。現場は車体に両側の木の葉が触れるほどの狭い林道、何度車体を切り返そうが転回は不可能・・・。

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呆然としながら振り返るとこの有様。延々と続くダートがリアガラス越しに見える。現地まではまだ遠く、車をこの場所に停め徒歩で向かうのも気が進まない。絶望的なこの距離のダート道をひたすらバックで戻るか・・・



山麓を迂回しようやく目的の廃墟付近へと到着する事ができた。佐渡島中央部の山裾の森。渓流に沿って荒れた山道を徒歩で下って行くと崩れかけた建物が緑の森に包まれていた。かつて地元に電力を供給していた水力発電の跡だ。

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佐渡の廃墟1810sado0202.jpg

渓流の音が響き渡る室内。上流から取水した川の水によって人里離れたこの場所で発電が行われていた。
内部にあったはずの発電器機はすでに撤去され土台だけが残されている。閉鎖後に持ち込まれたと見られる錆び付いたドラム缶や古タイヤが散乱していた。



佐渡島の中でも最も魅力的かつ秘境感溢れる場所は断崖が続く交通困難な大野亀周辺の北端部。
このような荒涼とした佐渡の海辺に木造校舎の廃校でも残されていたら最高なのだがと、以前なにげなく検索していると、なんと期待通りの場所に冬期分校の廃校があることをとあるサイトで知った。さらに木造校舎。

昨日に続き、佐渡島北端部へ到着。目的の廃校は外周路から外れた海辺の集落の片隅にある。小さな漁村集落の狭い路地を車抜け海辺へ出た。目の前には青い日本海。そして丸い石が敷き詰められた海際に目的の廃校があった。

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一見学校とは思えない番屋のような外観。
閉鎖後長い年月を経たのだろう。外壁は海風によって半分以上が吹き飛ばされ、建物内部がむき出しの状態となっている。今回佐渡で見た廃校の中では最も崩壊が激しいもの。
近づくのも危険なので外から内部を撮る。崩れた木片に埋もれかかった残った二階へと続く階段。かろうじて残る学校の痕跡は崩落した木材に埋もれた当時の机くらいか。

藻浦冬季分校廃墟1810sado0221.jpg


冬期分校とはその名の通り季節限定の学校。冬期通学困難となる雪国山間部などでよく見かけるもの。現在の外周路ができるまでは佐渡北端のこの集落においては冬場の通行は困難だったことだろう。校舎の崩壊具合がこの場所の厳しい環境を物語っていた。



海を望む別の廃校。こちらも幹線道路から外れ急坂を登った高台に立地するため一見その存在に気がつく事はない。高台のわずかなスペースに墓地、そして小さな校庭と平屋の校舎らしき建物が残る。横の墓地で墓参りをしていた方に話し内部を簡単に見せてもらった。
古びた木枠の窓から青い海を眼下に見下ろす。波が打ち付ける荒々しい西海岸とは対照的に凪ぎ様態の内海の静かな海が広がっていた。

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大野亀に立つ。
再びこの岩山を訪れたのには訳がある。大野亀頂上を目指すのだ。高度感ある岩山の上からは見渡す限りの絶景を望むことが見る事ができるはず。
しかし鳥居をくぐり斜面に取り付いた時点で大野亀登山はあえなく断念させられた。登山道は封鎖されていた。看板には崩落のためと書かれている。一体どこが崩れているのかとみれば確かに登山道脇の草原が海に切れ落ちている場所が見える。この程度の崩落ならば高巻きすれば余裕で越える事ができる登山では決して珍しくもないルート。非常に残念だ。

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今回は佐渡西海岸を中心に車中泊を行った。相川周辺に一軒のコンビニがあったため食材調達には困らなかったが、意外な盲点が西海岸沿岸に日帰り入浴施設が見当たらないことだった。
調べてみると佐渡島での温泉地は島中央部から下部に集中、三泊四日の車中泊、別に湯の質にこだわりはなくスーパー銭湯でも何で良いが寒さもあって風呂には入りたいもの。

佐渡の地図1811sadomap.jpg

相川に日帰り温泉があるという情報を知り訪れると建物は閉鎖され廃墟となっていた。その後偶然にも道すがら「日帰り入浴」と書かれた看板のある大型ホテルを見つけたのでなんとなく駐車場へ車を入れてみた。すると誘導係によってあれよあれよという間に観光バスが横付けされている正面へと車を誘導されてしまった。普段はまったく縁のない大型ホテル。そのまま引き返すもの気まずいので巨大な吹き抜けのロビーを進み敷居の高そうなフロントで聞いてみると日帰り入浴可能とのこと。

場違いな服装でふらりと訪れた自分に対しても、ツアー客や宿泊客と差別する事なく丁寧に対応し、温泉までわざわざ通路を案内してくれた親切なフロントスタッフに感動しホテル名を宣伝。その名はホテル大佐渡。
値段は少し高めだが日本海を望む景色の良い露天風呂があった。時間帯は午後四時ほど。貸し切り状態の湯に浸かり暮れ行く空を見上げる。太陽が水平線へと近づき、海面がきらめき始めた。

そろそろ良い時間、風呂から上がり日暮れを眺めるべく西に面した相川郊外の大間港跡を目指した。


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かつて鉱石の搬出に使われた大間港。港は閉鎖されたが、当時使用されていたクレーン土台、ローダー橋脚などが現在も遺構となって残されている。
温泉から15分ほど走り大間港へ到着すると岸壁にはお揃いの高級レンズを水平線に向け沈み行く夕日を狙っている撮影ツアーらしき10人ほどの一群がいた。しかし彼らは太陽が水平線に沈んだと同時に一斉にカメラをしまい写真家講師と共にぞろぞろと引き上げてしまった。メインはこれからだというのに。
寒風吹き付ける岸壁に立ち続けること20分、次第に空が紫へと変化。

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佐渡大間港夕日1810sado0254.jpg
佐渡大間港夕日1810sado0255.jpg
佐渡大間港夕日1810sado0256.jpg

澄み切った秋の大気が空に幻想的なグラデーションを作り出す。かつて鉱石の搬出に使われていた橋脚跡が黒いシルエットとなり空に星がちらつき始めた。二日目の佐渡は終わった。



終わったと書いたが、秘境で見る星も気になる。そんなわけでこの時間だというのに後先考えずに佐渡島北端、大野亀を再び目指す。到着するのはいったい何時になるのだろうか。相変わらず一貫性のない徘徊だが、場合によっては大野亀で車中泊をしてもよい。
この先大野亀まで何もないのは経験済み、まずはコンビニで食材補給。昨日と同じ外周路を北端を目指し走り続けた。コンビニで買ったおにぎりをかじりながらハンドルを握る。ヘッドライトの灯りが吸い込まれる前方の闇を見つめ続けているとふと、先ほどのホテルですれ違った団体客は今頃は暖房の効いた大広間で浴衣姿で豪華な佐渡の珍味を満喫しているのだろうなあと、ふと頭に浮かんだ。

いくつもの夜の集落を通過。昼間はほとんど人の気配を感じなかった海沿いの古びた民家。しかし夜になると漆黒の空間に点在するこれらの家屋からはひっそりと灯りが漏れ生活の息吹を感じさせられた。


跳坂夜景1810sado0264.jpg

再び跳坂を越える。
急勾配の坂道を登りきったトンネル手前から後方を降りかえると先ほど通過したあたりから夜空を煌煌と照らす非常に強い怪しい光が見えた。昇り始めた月の光とはまた別のもの。突き出た岬に隠され光源は不明だが道中は気がつかなかったから通過後点灯されたものに違いない。灯台には見えないし一体何の灯りだろうか。

やがて海を挟み大野亀の巨大なシルエットが見えた。

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大野亀の星1810sado0259.jpg


夜の大野亀は漆黒の闇だった。もちろん駐車場には人の気配も、一台の車もない。
星を撮ろうと懐中電灯を片手に夜の草原を木造の鳥居まで歩く。しかし昨夜に引き続き、吹きつける風に翻弄され三脚を立てる事もままならず。星を撮るという目的を果たせず、あえなく撤退。再び相川方面へと引き返す事にした。



対向車もまったく現れない夜の佐渡西岸。恐怖さえ感じる漆黒の海岸道をひたすら南下する途中、遥か彼方からヘッドライトが近づいてきた。両車は次第に近づき、やがてすれ違ったのは路線バスだった。
今日の最終便だろうか、おそらく相川から佐渡島北端の集落を目指し運行されているものに違いない。すれ違い様にちらりと見た蛍光灯が灯るバス車内に乗客の姿はまったくない。この場所、この時間、おそらくこの先のバス停から乗り込む乗客も皆無だろう。無人のバス停を通過する都度、車内に流れる音声アナウンスを聞きながら路線バスを運行する運転手は何を思い漆黒の闇の中をハンドルを握るのだろう。旅情を感じさせた一瞬だった。

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数時間前に跳坂の峠から見えた謎の光が次第に近づいてくる。
光に導かれるように十数キロの佐渡沿岸を走り続けついに光源へと到着した。光が空と海を照らし出す場所、そこは千本鼻(入崎)と呼ばれる突き出た岬先端の佐渡島入崎キャンプ場だった。

佐渡島入崎キャンプ場1810sado0261.jpg
佐渡入崎灯台1810sado0263.jpg

海に面したキャンプ場の草原にポツンと立てられたテント。その頭上を一直線に夜空を切り裂く一筋の青白い光。
それは入崎灯台から海の一部を照らし続けているサーチライトだった。自分がイメージする灯台の灯質とは規則性を持って回転し続けるもの。このような照射方法は初めて見た。地形図を見ると日本海に突き出た千本鼻沖合には無数の岩礁が存在しているのがわかる。サーチライトは沿岸で夜の漁を行う漁船の航行の安全を守るためこれらの岩礁に向けられているものなのかもしれない。

佐渡入崎灯台1810sado0266.jpg
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怪しい光は入崎灯台だけではない。
沖合の海上にもさらに強い光を発する不気味な発光体がある。数時間前、跳坂から見た佐渡沿岸部を数十キロに渡り強く照らし続けた光の正体はこいつに違いない。光に近づこうと夜の岩場を歩いてみたが入り組む奇岩に阻まれその正体を知る事が叶わなかった。

日没後も佐渡沿岸部を右往左往、さすがに疲れた。今夜はこの入崎キャンプ場で車中泊をすることに決める。昨夜の漆黒の闇とは違い、今夜は様々な光に包まれた車中泊となった。

[続く]
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