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●2019年5月某日/島、廃校、廃鉱、2019GW中国山地徘徊記.02

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中国地方の山中に秘められた某鉱山跡を目指した2019ゴールデンウィーク。
道中、瀬戸内海に浮かぶ廃墟の島、犬島に宿泊、島に残された廃校で一夜を明かした。
先は長い、そろそろ船で島をあとにするかと戻った犬島港で驚かされた。
小さな桟橋は昨日を遥かに上回る人の波。


photo:Canon eos7d 15-85mm

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久しぶりの犬島。二日目は暇を持て余し廃校脇の岸壁で釣りに挑戦したが釣果ゼロ。釣りのセンスのなさに嫌になる。捕れるものはといえばカニばかり・・・。
本日はGWの佳境、桟橋から眺めていると乗客を満載した船が宝伝港だけではなく近隣の直島からも続々と犬島港に到着する。時刻表に掲載されていない時間にも到着しているところを見ると臨時便が運行されているのだろう。

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地元の方から「今日か明日あたり犬島は人の重みで沈んでしまう」と冗談まじりで言われたがこの小島に数千人の来島者はあきらかにキャパオーバー。このままではいつ帰れるのか不安になったため早めの船便で島を出ることことにした。もちろんこれで今回の徘徊完了ではない。2019年GWの本来の目的地は山中に残る鉱山跡なのだ。



岡山県北部。昼過ぎの便で犬島から本土へ帰還し岡山県内陸部の北上を続けた。いくつもの県にまたがる広大な中国山地。そんな山中に残る廃校を目指す。
この廃校、実は2011年に行った中国地方徘徊時に見つけ出す事ができなかった物件。さすがにこの8年の間に解体されたのでは、と駄目もとで現地に到着。すると急坂を登り続けた高台に木造校舎がまだ残されていた。

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雑草に覆われた校庭、その奥にある新緑に包まれた平屋の木造校舎。一見よく保存されているかに見えるが実際には屋根、壁共に、崩れかけている。校舎は高台にあるためふもとからは視認する事ができない。前回見つけ出す事ができなかったのもうなずける立地。門から見下ろすとこの地域の特長であるオレンジ色の瓦をのせた日本家屋が里山に点在しているのがよく見えた。


中国地方ツーリングマップ1905gwmap.jpg

どこまでも続く深い山。
広島、岡山、鳥取、三つの県境が交わる中国山地最深部の名もなき林道を走りつづける。林道は時折小さな集落を通過する。庭先で座り込む老人は、ひょっこり現れた場違いなナンバープレートの車をじっと見つめ続ける。



小学生の頃、全国的にブームになった児童文学に「ズッコケ三人組」シリーズというものがあった。全50巻に及ぶそのシリーズの中で児童文学らしからぬストーリーで異彩を放っていた巻が初期の名作「ズッコケ山賊修行中」である。軽めのタイトルと漫画タッチのイラストとは裏腹に内容はなかなかディープで、未だトラウマとなっている巻だ。

舞台は中国地方山間部。ドライブに出かけた小学生の主人公三人が、山中の林道で「土ぐも族」を名乗る集団に拉致されるところから話は始まる。三人は山賊のような身なりをした「土ぐも」一族と洞窟内に密かに築かれたコミュニティで原始的な集団生活を送ることになるのだがこの話の真の恐ろしさは、一見のどかに見える中国地方の山村が数百年にわたり、「土ぐも」の宗教的支配を受け続けているのだ、という設定である。

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土ぐも族自体は土ぐも様を長とした100人ほどの小規模な集団。しかし周囲の山村で生活を営む人々は皆「土ぐも」の宗教的影響下に置かれ、それを代々受け継がれてきた田舎の風習として何の疑いもなく受け入れている。
ドライブ中、主人公達は村人の手引きによって知らず知らずのうちに「土ぐも」影響下の村へ導かれていた。一旦は脱走を図った三人だったが「土ぐも族」が中国山地に密かに築き上げたネットワークによってたちまち連れ戻されてしまう。最も安全な避難先だと思われた田舎の駐在所の警察官、その一家までもが「土ぐも」支配下だったと判明する瞬間は子供心に衝撃を覚えたものだ。
結局三人は「土ぐも族」が各地の村々へ連絡用として繋げた間部と呼ばれる坑道を利用し脱出に成功するのであるが、地上に出たその場所は広島、岡山県境(作中では稲穂県、岡島県)の山村にある神社裏であった。中国山地の山々に時折現れる集落が「土ぐも」影響下になっているのだと思うとぞっとしてしまう。



発行から30年ほどたって「ズッコケ山賊修行中」の続編が出た。成長した大人の観点や報道を通し民俗学的に「土ぐも」の謎を解明していく様子がリアルに描かれる。児童板では触れられていなかった細かい設定が興味深い。さらには内ゲバと支配下の村々の反乱によってコミュニティが崩壊する悲劇的なラストに大人になった自分は再び衝撃を受けてしまった。


※ここから先は勝手な自由研究なので飛ばしてください。


広島市がモデルとされる稲穂県ミドリ市を舞台にしたズッコケ三人組シリーズ。作中にはしばしば実在の場所を連想させる架空の地名が登場する。その中でも特に「ズッコケ山賊修行中・続編」においては報道や調査過程の中で詳細な日時や実在に近い地名も登場するため拉致、アジト、脱出経路などの事件現場をリアルに絞り込む事ができる。

もちろんズッコケ山賊修行中が架空の話だということは理解しつつも子ども時代、頭を悩ませた謎のひとつが土ぐも族の本拠地「くらみ谷」があった場所だ。「くらみ谷」は人跡未踏の渓谷の中州にあったとされる。まずはその場所を続編から拾い出し地図に落として行こう。

ズッコケ山賊修行中くらみ谷地図1905kuramidanimap.jpg

三人組拉致事件が発生したのは1978年の12月7日。
知り合いの大学生が運転する車で勝川峡へ紅葉狩りドライブに行った帰路の道迷いがきっかけだった。勝川峡とは有名な景勝地帝釈峡がモデルだろう。解明編から読み取って行くと舞台は作中に登場する中国自動車道の新美インター(新見インター)と藤城インター(東城インター)の間のようだ。
土ぐも族の本拠地があった渓谷は三国山を源流とした三国川上流と解明されており、この三国山は岡山県、鳥取県が交わる中国山地に実在する。二つのインターと三国山を結ぶ三角形の中の「くらみ谷」があるはずだ。

「くらみ谷」への直接のアクセス路は当然存在せず、上記地図のように林道経由で三国川上流へ入り、釣り人も立ち入らない渓谷をひたすら遡上する必要がある。また断崖に掘られた洞窟が生活拠点だったため空撮にも写らず近年まで人目に触れることはなかった。土ぐも族は外部との関係を絶ち、隠れるように暮らしている訳ではなく現在においても間部と呼ばれる坑道を利用し、物資の搬入、祭事による村々の支配を積極的に行っていた。このあたりの設定、吉村昭氏の小説「水の葬列」に登場するダムに沈む秘境集落を彷彿とさせる。

なにげなく手元の地図を見ていてぞっとする。現在車を走らせている林道はアジトがあったとされる三国山麓。木々の合間からは見渡す限りの山々と点在する民家が見える。これらの集落は既に土ぐも様の影響下に置かれているのではないか。先ほど車を見つめていた老人によってすでに通報されてしまったに違いない。そのうち林道を塞ぐように「土ぐも族」が現れるのではなかろうか・・・。

自分の育った田舎にも得体の知れない儀式があった。定期的に集落の大人達が家に集い神棚に貼ったお札に向かい祈りを唱え会食が行われる。自分の家の順番になると準備を手伝いながらすき間からその祈りを覗くのであるが子供心にも不思議な印象の儀式だっだ。「土ぐも」教に限らず田舎には土着の宗教の宝庫なのである。



例によってくだらない妄想に長時間ふけりながら離合不可能の林道を延々と走り、気がつくと山中の県境を越え、岡山から広島県へ。峠を下って行くと視界が開け水が張られた田んぼを包み込むように10棟ほどの民家が点在する集落に到着した。

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集落を見下ろす高台にある建物は廃校となった小学校跡。今夜の宿泊先となる。犬島についで連続の廃校宿泊。老朽化していた校舎建物が改装され簡易的な宿泊施設として再利用されており非常にきれい、そして激安。貼られていた古写真によれば二つの木造校舎があったようで、現在は一方を宿泊棟、もう一方が自炊棟に改装されている。

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磨き込まれた床板に窓枠の影が写り込む。教室跡には黒板など当時の学校の面影となる当時のものがわずかながら残されている。



廃校管理人の方が山中の滝に連れて行ってくれるというので車の助手席に乗り込んだ。廃校から滝までは細い林道が続く。地元だけあって慣れたもので山奥の曲がりくねった林道をかなり飛ばす。カーブ向こうの対向車の有無をまったく気にしないローカル運転に恐ろしい思いをしながら林道奥にある滝付近に到着。谷間を徒歩で下った山中に想像以上に大きな滝が冷たい飛沫を吹き上げ流れ落ちていた。滝も良いが個人的には気を引いたのが滝壺脇に残されていた水力発電所跡。

水力発電所跡19052019gw0205.jpg

薄汚れた窓ガラスを通して錆び付いた発電機が見える。発電所としては小規模のものだが滝上流の蛇行部分には取水口も残されており高低差を利用し発電が行われていたようだ。なかなか良いですねと伝えるがこちらにはあまり関心がないようだ。滝、蛇行、林道、また土ぐも族が頭に浮かんでしまった。



廃校は素泊まり。食事はもちろん自炊のため、数時間前、新見あたりのスーパーで買い込んでおいた食材を用意。校舎を改装した調理場で適当な自炊。新見辺りのスーパーを最後にここに辿り着くまでの間、一軒のコンビニも商店も目にしなかった。あらかじめ食材を買っておいて本当に良かった。

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田んぼに囲まれた小さな集落は日が暮れるとカエルの大合唱に包まれる。犬島から岡山を経由して現在地は広島県山間部。鳥取県も近い。廃鉱山にかなり接近、明日はいよいよ目的地への到達予定日だ。



GW三日目緑溢れる中国山地。目的地の廃鉱山が次第に近づき胸を高まらせながらハンドルを握り北上を続けた。標高が増すにつれ季節が逆戻りを始めた。鮮やかな新緑は薄まり道路脇の桜が満開となっている。やがて道は中国山地を南北に分断する分水嶺をこえ日本海側、鳥取県へ入った。

峠を日本海側へと下った山中にある集落、その外れに廃校となった小学校がある。廃校駐車場に車を停め人と待ち合わせる。目的地の鉱山はクローム鉄鉱を採掘、90年以上の歴史を持ちながらも海外鉱との競合に敗れ休山となったもの。休山と言っても事実上の閉山状態のため現在は鉱山施設は朽ち行くまま廃墟となっていると言う。

休山後、鉱山管理を委託されている案内人の方と合流、その方の車に乗り込み山へと向かった。車は沢沿いに山道を走り高度を上げて行く。しばらく走り続けると山道は通行止となってゲートで封鎖されていた。ここからは徒歩で鉱山跡へ向かう。

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鉱山跡からかなり手前の地点で道がなぜ封鎖されているのか、その謎はすぐに解けた。歩き始めてわずか数分で舗装されていた路面は大きく荒れ始めた。水が削り込んだ深い轍、路肩は谷へと大きく崩れ去り車どころか徒歩でもおぼつかない箇所もある。渓流の音が響き渡る道を右へ左へと迂回しながら登り続けた。
木々が途切れると正面にそびえる山の斜面に緑に包まれた錆び付いた建物が見えた。

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若松鉱山廃墟1905wkouzan0102.jpg

見上げるような高所にある建物を目指し坂道を登り続け目的地の鉱山へついに到着。建物直下に建った。
先程見上げた建物は鉱山のごく一部。鉱山全容は窺い知れないが上部や木の裏などにもさらに多くの建物が眠っているようだ。正面には増築を繰り返したかのような複雑な茶褐色の施設がそびえている。
目の前の壁面には筆文字で機械選鉱場と書かれた建物がある。到着も早々にさっそく建物内部へと足を踏み入れた。

[続く]
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