●2019年11月某日/廃墟、池、頂の先を目指す晩秋信越徘徊録/前編
- 2019/11/17 22:49
- Category: マニアックスポット

冷え切った車内で朝を迎えた。
シュラフにくるまっていた身を起こし結露した窓を拭くと車の周囲は真っ白な霧に包まれていた。
長野県自動車道、筑北パーキングエリア。
トイレ、自販機が設置されているだけの一般観光客方からは
見向きもされぬような至ってシンプルな休憩施設。
しかし深夜まで煌々と灯りが点り騒がしい大型サービスエリアに比べ安眠できるため
高速道路での車中泊においてはこのような小型PAを選ぶことが多い。
2017年北海道→LINK、2018年佐渡島→LINKに続く
恒例の晩秋徘徊は筑北パーキングエリアからスタート、
新潟長野それぞれの山の頂のとある場所を目指した。
photo:Canon eos7d 15-85mm
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。

地上を覆っていた霧が晴れ紅葉に染まった晩秋の山々が見える。新潟長野県境付近の山々も冬間近。あの頂の向こうに目的の場所があるはず。山裾に取り付き入り組む林道を縫うように車で登り続けた。

森の中、あるいは切り立った斜面にへばりつくように作られた林道。
標高はみるみる上がり先ほどまでいた里山が遙か眼下に望めるようになった。分岐する複雑な林道に悩まされながら斜面を登り続けること30分あまり、色づいた木々が切れるとふいに視界が開け意外なほど平坦な場所が広がった。


ゆるやかになった道を車を進めると特徴ある数本のサイロが平地の中央にあるのが見えた。標高1,000mを上回る土地。最初の目的地、廃墟と思われる某施設跡に到着。
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高台から見下ろした限りでは施設は現在も使用されてるように見える。しかし近付くとその荒廃ぶりがあらわになった。閉鎖され草に覆われた建物、完全に崩れ落ちた建物。施設中央部を林道が横切っているためフロントガラス越しに繰り広げられる光景に驚きながら車を進めた。
林道を中心に2本のサイロ、そしてそれらを取り囲むように数多くの朽ちた建造物。この場所、サイロから察するようにかつての牧場なのだ。


この廃墟を知ったのは例によってgoogle空撮写真で国内上空をさまよっている最中だった。深い山中にある広大な草原に違和感を感じ画面を拡大していくと崩壊したと思われる何らかの施設がいくつも映し出された。なんとストリートビューもこの現場を網羅しており画面に写されてたサイロなどから牧場跡だろうと推測し今回の訪問となった。このような秘境の廃墟にも撮影車が訪れるとはおそるべし。
それにしてもこの施設、勝手に廃墟と書いているものの本当に廃墟なのか。そう思ったのは崩落した建物の片隅に新しい農業用トラクターが置かれていたからだ。しかし遙か遠くで作業している農家の人影が見えたのでおそらく置き場として使用しているのだろう。


廃墟群の中央を通過する林道を抜け施設を俯瞰できる場所まで移動し施設全容を見渡してみる。周辺のなだらかな丘陵にはいわゆる牧場を彷彿とさせる草原は皆無、そのほとんどは風になびくススキの群落となっている。農作業が行われている耕作地も以前は牧場の区画だったのだろう。
ゆるやかな傾斜を持った丘陵地には鳥の巣のように見える宿り木を有する大木が規則性を持って点在しススキ、灌木、原野、その中心に廃屋、このような荒涼とした土地大好きだ。
今回の徘徊、本来ならば先月行う予定だった。しかし相次ぐ台風によって断念、落ち着いた時期を見計らって出発してみたものの新潟長野周辺の道路は災害によって至る所寸断されていた。特に自分が好む林道系はライフライン復旧の後回しにされてしまうため計7回も行く手を崖崩れや倒木に阻まれてしまい結果どこにも辿り着くことができなかった。
実際11月の今回に至っても廃牧場への山道はところどころ路肩が崩落、また通行止め箇所もかなりあったためあらかじめ迂回路候補を調べて置かなければ辿り着くことができなかったかもしれない。
この「頂の廃牧場」、訪問翌週には今年初の寒波によって冠雪に見舞われたようだ。これが今年最後のタイミングだった。
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廃牧場からの下りは別のルートを選択した。帰路の秋の光景も魅力的だった。深い谷底に光が届きまばゆいばかりの紅葉に包まれた林道を下っていく。


新緑に比べ紅葉への関心があまりなかった自分だったが思わず車を停めてしまう光景が次々に現れた。鮮やかな湖面の色と紅葉の組み合わせが目を引いたダム湖。
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ようやく平地へと戻った。ここから次の目的地である新潟県山中の某廃校へと向かう途中道路脇に気になる建造物を見つけてしまい即座に車を滑り込ませた。
場違いなコンビナートのような円筒形の巨大な物体が谷間を埋めている。車から降り看板を読むとこの不思議な建造物なんと砂防ダムだという。


名称はトヤ沢砂防堰堤。堰堤の背後にはかなり急峻な沢があるようでセル式えん堤と呼ばれる土を詰めた円形筒を敷き詰めることによって土石流を防ぐ仕組みだそうだ。
トヤ沢砂防堰堤が変わっているのはその形状だけではない。円形筒の堰堤上部は草原と化しているのだ。旺盛な繁殖力で堰堤からあふれ出しそうなほどのススキの群落。ここもまた秋を感じるダムだった。さらに山中を走りいよいよ廃校がある集落が近付いてきた。

久しぶりに衝撃を受けた分校の廃校。荒廃した校舎と鮮やかな紅葉の組み合わせが唐突に飛び込んできたからだ。
この廃校、道路からは気配すら感じさせず、門柱へと続くアプローチを登り切った瞬間、余韻もなくいきなり写真のように校舎が目の前に現れるためインパクトが大きい。
ここは10年以上前に一度訪れたことがある場所。その際、季節は夏場だったため校舎は生い茂った緑に包まれ、建物自体も何らかの業務に使用されていた形跡もあった。しかしこの10年で老朽化は予想以上に進み校舎は傾き、崩壊寸前の様相。



山と棚田が続く新潟の山間部に位置するこの一体では近年廃校などを再利用し行う芸術祭なるアートイベントが活況を呈し自分も何度か回ったことがある。
しかしこの分校校舎だけはそのような流行からは忘れ去られ崩れに身を任せたまま。深い山中、さらに横を走る道路からはまったく視認できないため、誰もがその存在に気がつくことなく放置されているのだろうか。
この廃校に至る道中、気になっていたのが時折現る集落の民家。ほとんどの民家の軒先に四本のタイヤがに並べられている。雪に縁のない地域で育ったため知識が乏しいがこれらのタイヤ、冬を前にした交換作業用なのだろう。この11月中旬の土日が冬タイヤへの交換のタイミングなのか、村の車工場にはタイヤ交換会なる横断幕が張られ主に年配の人々が列をなしていた。なるほど、コレが雪国の冬を迎える準備なのか。別の地域を回るとこのような文化の違いを知ることができると同時に雪国の困難さを思い知る。
豪雪地帯である新潟山間部。雪の重みに耐えかね木造校舎が崩壊するのも時間の問題かもしれない。
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昼時。掲載していないものも含めれば早朝から徘徊した箇所は計6カ所。さてここからどの方角に向かうか。
高台の空き地に車を停めフロントガラス越しにある小屋を眺めながら行き先を思案。今回の徘徊予定地は群馬、新潟、長野を中心に30カ所ほど。もちろん短い日程でその全てを回りきることは不可能なので、天候と交通状況を見ながら判断する必要がある。
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結局次に訪れることにしたのは新潟、群馬県境の三国峠付近にある二居ダムだった。
10台ほどの車列に混ざり353号線を南下途中、山裾の分岐路で自分以外の全ての車が一斉に右折していった。一体これらの車達はどこに向かったのかと道路脇の看板を見ると「清津峡入口」と書かれている。なるほど、これが最近話題のスポットか。トンネル奥に張られた水を使うことで鏡面写真を撮ることができるようだ。
こちらも清津峡には負けじと他のトンネルに向かうのだ。到着したのは深い谷間を流れる清津川をせき止めた二居ダム。この川は日本海へ向け流れ下り10数キロ下流で先ほど入口を通過した清津峡を形成している。


しかし今回の目的は堰堤ではなく、発電用として使用されているトンネル。堰堤見学は早々に道を下り発電所付近へ。灰色の擁壁に開けられたアーチ型の穴へと入った。
水滴がしたたるゆるやかなカーブを描くトンネル。これは水圧鉄管敷設の際に搬入路として掘られたもの。薄暗く無機質な空間が続くトンネルを歩いて行くと最深部には現在も使用中の水圧鉄管があった。三脚を車に置いてきてしまったため手持ちでなんとか。

秋の行楽日和、混雑しているだろう清津峡トンネルと引き換え、同じ清津川に作られたこちらの発電所トンネルでは滞在中誰とも会わず。トンネルから外に出ると子どもの叫び声のような声が聞こえてくるため驚き見上げると対岸の森の中を移動する猿の群れだった・・・
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さて、本来の予定ではこのまま群馬県側の次の予定地を目指し南下するつもりだった。しかし脳裏に浮かぶのは朝方、訪れた頂の廃牧場。
ダムから見上げると頭上は秋晴れ、標高1,000mを越えるあの高度から眺める夕日も良いに違いない。時刻は15時、日没まで1時間半、ギリギリのタイミング。そのまま即座に車に乗り込み二居ダムから牧場跡へ移動を開始。
道中のコンビニで購入した遅い昼飯をかじりながらハンドルを握り先ほどの道を戻り続けた。国道を外れ道は県道、やがて林道に。秋の日は短く既に深い谷底の山道は夜の気配、狭い頭上にわずかに見える秋の空はみるみる暮れていく。
闇に包まれた林道を上り続け再び高原へ出た。間に合った。標高1,000m弱、ここは別世界のように日射しに包まれていた。




今日最後の光が崩れ落ちた建物やサイロを染め、広大な原野を逆光できらめかせる。
片光の強い光に照らし出された廃牧場は今朝見た光景とはまた違った荘厳な雰囲気。




晩秋のこの季節の徘徊ではいつもどこかで見事な夕日、夕焼けに遭遇することが多い。去年は日本海に浮かぶ佐渡島で、一昨年は北海道の原野で雄大な夕日と夕焼けを眺めていた。
やがて日が稜線に落ち周囲は急速に闇に包まれていった。同時に冷気が身体を包み込む。

夜、関越トンネルを通過し今度こそ関東側へ抜けることができた。毎度の事ながら一貫性のない徘徊だ。とはいえ宿を予約しない車中泊だからこそできる臨機応変の旅とも言える。
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今夜は群馬県にある道の駅で車中泊。ここでは道の駅に隣接する温泉があったため非常に助かった。晴れ渡った本日だったが、夜間、車の屋根を雨粒がたたく音で目覚めた。明日の最終目的地は本日の廃牧場標高を上回る頂の某所、無事訪れることができるのだろうか。
[続く]
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