●2023年4月某日/紀伊半島、失われ行く痕跡を求めて。山中の無人集落。[中編]
- 2023/06/24 22:22
- Category: マニアックスポット

三重、和歌山、奈良を跨ぐ紀伊半島山岳地帯。
1年越しとなった国道425号の後半と、南紀の廃校探索を終え昨夜は山中で車中泊。
いずれの目的地も深い山中に点在、林道をひたすら走り続けた一日となった。
翌朝、まだ冷え込む紀伊半島山中に停めていた車内で目を覚ます。
結露した窓から垣間見える周囲の様子はまだ薄暗く、
早朝5時台だろうと思っていたら既に7時前だった。
車を停めていたのが深い谷底だったため、日が射し込まず二度寝の恐怖。
寝坊によって少し予定が狂い始めたが、ポリタンの水で顔を洗い紀伊半島徘徊後半スタート。
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。
[前回の記事]
寝起きも早々に向かった最初の目的地は、車中泊地点から北上した谷間にある古びた某集落。
以前この脇を車で通過した際、車窓に偶然見えた廃村を思わせるその姿に目を引かれたものの、車列が連なっていたため急減速し集落への路地へ入ることができず通過してしまった。帰宅後ストリートビューで確認するとgoogleカーが撮影した画面には曇天の空と同化したようなトタン屋根の民家群が映し出されていた。
画面に映し出させる建物はいずれも古びており、人が住んでいるようには見えない。とはいえ、実際に現地を訪れてみないと実態は不明。

早朝の朝日が谷底まで届き、茶褐色に錆び付いた複数のトタン屋根を立体的に浮かび上がらせる。狭い斜面に立ち並ぶのは10棟ほどの民家。

ここに建つ建物はいずれも重量感ある屋根を持つ古民家を思わせる立派なものばかり。それらが斜面に整然と密集する様はまるで時代劇で登場する宿場町セットのようだ。建物はいずれも朽ち果てており、しばらく様子を観察していたがいずれの民家からも人が居住している気配は感じられない。



ひっそりと静まりかえりる民家の合間の路地を歩く。足下には古びた洗濯機や、機械が錆び付いたまま草に埋もれている。ここが「廃村」のように完全に放棄されている場所なのかは不明だが、おそらく現在、定住者はいないだろう。



集落は背丈程のススキに覆われつつあり、これらの民家も夏場になれば緑の草原に埋もれてしまうのだろう。
片隅の斜面に建つ最も大きな建造物。民家というよりも製材所のような雰囲気を持っており、開いたままの窓枠から内部を覗くと建築資材が散乱、なんらかの事務所だったのではと思われる。




現在地は山々に埋もれた谷間ではあるものの、このサイトによく登場する「隔絶された山中の秘境集落」というほどでもなく、国道が近隣を通過する、紀伊山地にしては「交通の便は割とまとも」な立地。しかし今や、このような場所でも集落維持が困難なのだろうか。
森の中には吊り橋が見え、対岸にもある廃村へとたどり着けそうだったが、時間も押しているため切り上げた。
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集落を離れ紀伊山地の北上を続けた。山道は次第に標高を増して行く。桜の花が開花を始め、道路脇の光景は初夏から春へと季節は逆戻り。

どこまでも続く広大な紀伊山地の深い山々。これが奈良県の実態だ。寺社仏閣のイメージを持たれやすい奈良県、実はその8割を山が占める山岳県でもあるのだ。紀伊半島のマニアックな場所を巡る探索開始から2013年でちょうど10年目、これらの谷底には廃校、廃村を始めとする未踏の予定地が無数、埋もれている。全てを回りきるためにはどれほどの年月が必要となるだろうか。

そして最深の地、奈良県野迫川村へ。人口わずか350人。その面積のほぼ全てを山岳地帯が占める野迫川村。山上のわずかな一画に役場を始めとする村の小さな機能が集中、それ以外は植林された険しい山々がひたすら続く。秘境とも言われる野迫川村はこのサイトに何度も登場する自分が好きな場所のひとつ。今回も時間の許す限り村内の予定地を回りきりたいところ。

いつもの秘境集落へ立ち寄る。と言っても気軽に行けるような場所でもないのだが。
それは野迫川村の果て、延々と伸びる尾根沿いの山道を下り続けた斜面にある戸数わずか10数戸の集落「立里」。標高750m。自分はその特殊な立地に惹かれこの集落訪問がライフワークのようになっている。→LINK

集落目指し、山上の尾根に張り付く狭い林道を走り続ける。やがて林道は急勾配の下りとなった。この先に目的地の集落があり林道もそこで行き止まりとなっている。
植林された薄暗い杉林が途絶え視界が広がると、日射しに包まれる何棟かの赤茶けたトタン屋根が現れた。


眼に入る民家のほとんどは荒れ果てており、廃村のようにもみえるがここには現在もわずかに居住者がいる。いわゆる限界集落ではあるが「廃村」ではない。自分が興味を引かれる集落の特異な立地に関しては次項で詳しく触れたい。
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眼下に深い谷間を見下ろす標高700mを超える尾根。密林のように続く杉林が切り開かれた明るい空間に民家が点在している。10棟近い民家が隙間無く密集していた先程の廃村と違い、ここ立里では民家同士が適度な間隔を持って斜面に散開しており、それが集落全体をどこかのどかに、美しく見せている。

集落中央に建つ建物は廃校となった立里小学校の木造校舎。校舎の窓が破れているため、外からでも当時を偲ばせる教室の姿を間近に見ることが出来る。
[続く]
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