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●2016年9月某日/ダム湖に沈んだ幻の滝

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愛知県の山間部にある宇連(うれ)ダム。
渇水に悩まされる夏場には普段、水の底にあるダム湖に沈んだ滝が姿を現すことがあるという。
しかしここ数年は貯水も順調、灌漑にとっては嬉しい状態が続いていた。
そして2016年夏。8月上旬は70%を越える貯水率を保っていたもの
中頃から少雨が続き貯水率を示すグラフはみるみる低下して行く。
下旬にはついに貯水率10%を割り込み記録的な大渇水となった2013年に匹敵する値まで低下した。
毎日のように宇連ダム貯水率をチェックし続けていたが翌週からは大雨予報。
おそらく貯水率は一気に回復することだろう。
湖底に沈んだ滝を見るのならばこの週末しかないと宇連ダムを訪れた。


photo:Canon eos7d 15-85mm



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愛知県新城市、宇連ダム天端に到着。
このダムを訪れるのは初めてではなく10年程前、さらに山中にある廃村と廃校探索を行った際、湖畔の道を通過したことがある。その際満々と水をたたえていた鳳来湖とよばれるダム湖は茶褐色の地肌がむき出し、わずかに水が残されているだけの無惨な状態となっていた。本日の貯水率はわずか8%ほど。


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前回訪れた際の写真が見当たらず満水時のイメージが湧かないためダム天端に設置されていた説明看板を撮った[上記]。緑の山中に満水の青い水。まさに理想的なダム写真。湖面に浮かんでいるダムフェンスも本日はだらしなく地べたに足れ落ちている。



ここから湖底の滝を目指しダム湖に沿って上流へと進んで行く。曲がりくねった道路脇には停車した車がちらほら。ここまで水が減れば釣りという訳でもないだろう。自分と同じように干上がった湖底を眺めに訪れたのかもしれない。
この道、木々に覆われているため視界が悪く肝心のダム湖の様子はほとんど伺うことができず。写真はようやく視界が開けたあたり。奥にそそり立つ奇妙な岩山は女郎岩と呼ばれているもの。鳳来山や乳岩に代表されるよう周辺には奇岩が多い。


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ダム湖に沈んだ村があったのはこの辺りだと思われる。国土地理院サイトで過去写真を検索、見つけたモノクロ航空写真を合成。ダムが完成する10年ほど前のもの。平坦な土地に畑や民家らしき姿を見ることができる。10数年前訪れたダムに沈む直前の岐阜県旧徳山村のように大規模なものではないが、それでもかつてこの場所で人々の生活が営まれていた。

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貯水率が1%を切った2013年大渇水の画像を検索すると、湖底から現れたかつての橋や石垣の姿を見ることができる。しかし今回は水が減ったとはいえ訪問時の貯水率は10%を割り込んだばかり、ダム堰堤に近い集落跡は茶色の水に覆われ残念ながら沈んだ村の全容を把握することはできなかった。


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宇連ダム渇水1608uredam0104.jpg
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[2017年4月追記:同一地点]満水時の風景と比較すべく再び宇連ダムを訪れた。当日の貯水率は98%。雨が続いたことでダム湖は渇水の光景が幻だったように青々と水をたたえていた。



やがてダム湖は荒れ果てた荒野へと変化した。湖底に足を踏み入れてみたいものの断崖が続き道路から降りられそうなポイントが見当たらない。ようやくのことでダム湖に流れ込む支流、栃木沢を渡る2つ目の橋あたりで傾斜の緩い箇所を見つけ車を停め湖底へと下りてみる事にした。



生い茂る木々をかき分けかつて水際だったと思われる境界線へやってきた。真横には無惨な状態で打ち上げられた船着き場。泥に足が沈むことも想定し長靴も持ち込んでいたが、数ヶ月以上干上がった状態なのか湖底の土は意外に固く、草原と化していた。


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湖底を歩いて行くと切り株が地面を覆い始めた。ダム建設においては貯水時の残留物浮遊を防ぐため水没予定地にある建造物は可能な限り撤去される。木々も例外ではなく伐採され切り株だけの姿となってしまった。



それにしても木というものは水につかっても意外に長持ちするものだと妙なことで感心してしまった。ダム完成から58年、湖底に浸かったままだというのに切り株は腐敗することなくその形を残している。今回は見ることができなかった木製の橋も未だに現状を留めているという。かつてタウシュベツ橋梁を探し訪れた北海道糠平ダム湖でも干上がった湖底に同じような無数の切り株が残されてていたことを思い出した。


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行く手に小さな滝が現れた。目的のものではないが近づいてみる。透明度の高い滝つぼを覗き込むとたえまなく動き回る魚影が見えた。魚にとって大海原のようだった巨大なダム湖も今や直径わずか数mたらず。自由を失い閉じ込められた魚の運命は雨次第。


宇連ダムの滝1608uredam0110.jpg
宇連ダムの滝1608uredam0111.jpg


この名もなき滝は八石橋の真下にある。
橋脚上部には水を示す痕跡が残されており、満水時には橋桁直下まで水に浸かると思われる。目的の滝はさらに上流、湖底を歩き車に引き返すと奥地を目指す。


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進むにつれ湖底はさらに広がり水没していたかつての宇連川が削り取った本来の地形、そして泥にまみれた人工物が姿を見せ始めた。最も目立つのは、旧宇連川に架けられたかつての橋脚跡。この橋両岸に続く当時の車道もうっすらと読み取ることができる。

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気になるのは周囲に転がる巨大な岩石郡。車道跡と比べその大きさがわかる。あまりに巨大な岩、当時からこの場所にあったものなのか、それともダム完成後転がっていたものなのだろうか。



この辺りまで遡ると両側の山が迫り鳳来湖の幅も狭まって行く。そろそろ目的地も近いはず。何度か車か降り位置を確認しながら上流へ進んで行くと木々の合間からそれらしき岩がちらりと見えた。空きスペースに車を停め踏み跡を辿り下って行くと足下は明瞭な道へと変化する。雑草に覆われているものの明らかに車道。どうやら水没前に使用されていた旧道のようだ。

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森を抜け視界が開けた。水を失った宇連川跡はまるで渓谷のようにみえる。上流側には曲がりくねった亀裂が走る巨大な岩。普段は湖底に沈むこの岩、今日は予想通りその全容を晒しだしている。この岩の裂け目に目的の「穴滝」があるという。

まずは半年後のダム満水時の穴滝周辺。

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[2017年4月追記]あまりにも風景の印象が違い場所を探すのに苦労した。穴滝は深い水の底。対岸に滝を形作る岩場がわずかに顔をだしているのがわかる。

そして本日、同一地点の写真。見事に水が干上がり、隠されていた岩の全容が現れた。

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この滝、その姿を眺めるためには二重の障害を乗り越える必要がある。
ひとつめはダム湖の水位。平常時には岩場自体が水面下に沈んでしまう。そのためここ数年、ダム湖の水位をチェックし続けてきた。

さらに水位が下がったとしても滝の姿を拝むにはさらに一苦労が必要だ。
穴滝はその名が示すよう長い年月をかけて水によって削られたゴルジュ内の閉塞された空間に存在している。非常に複雑な構造故、岩場の上からも下からも見事に視界から覆い隠され、滝を見るには泳いで隙間に入り込む必要がある。「渇水時」に「泳いで到達」という2つの困難な条件が重なるためかネット上にも滝全景を捉えた写真はほとんど見当たらず幻の滝というネーミングがぴったりだ。
まずは滑り落ちそうな岩の上からおそるおそる身を乗り出し隙間を覗き込んでみる。轟々と流れ落ちる水音は響き渡るものの滝本体の姿は覆い隠されている。



急峻な岩場を下流まで迂回し岩場正面へと到着した。見上げるような岩が複雑に入り組み滝の姿は相変わらず望むことができず。

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宇連ダムの穴滝1608uredam0207.jpg


気が進まないがやはり入水するしかないか・・・。
着替えマリンシューズに履き替える。一眼レフは運べないため久しぶり出動した防水カメラを片手に流れに足をつけた。山から流れ込む水は残暑が続く季節とはいえ非常に冷えきっている。


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冷たい水をかき分けしばらく徒歩で進んだものの、岸辺から数mほどで川底は一気に落ち込んだ。
渇水中とはいえ水量は豊富、当然足は着かないため立ち泳ぎをしながら入り組んだ岩場の奥へと進む。当初左奥のくぼみに滝があるのでは、と裏まで泳いだものの予想に反し滝の姿は見当たらない。泳ぎながら周囲を見渡すと目の前に立ちふさがる一枚岩の水面ぎりぎりにわずかな穴がある。まさかこの穴に入れということか。



奥にどのような空間が待ち受けているのか。頭をぶつけないようギリギリまで水中に体を沈めると、泳ぎながら小さな穴をくぐり抜け岩の内部へと入った。下記写真は抜けた穴を空洞内部より撮ったもの。

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目に飛びこんできたのは薄暗い洞窟のような円形の空間。直径は5mほどだろうか。垂直の壁が周囲を囲む空間は底知れぬ青い水で満たされている。
その奥で飛沫をあげ流れ落ちる滝。これが穴滝か。轟々と響く水音と水しぶきが狭い空間に充満している。泳ぎながら穴をくぐり抜け始めて目にすることのできる光景。この瞬間、「穴滝」の意味を初めて理解した。


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まるで「壷」に閉じ込められたのような滝つぼで水の流れに身を任せぷかぷかと浮かんでいたものの、いつまでも泳いでばかりではらちがあかない。
垂直どころかオーバーハングの岩が続く壷の中で手がかりはないものかと見渡すと裏手にわずかなスペースがあった。つるつるとよくすべる丸みの帯びたわずかな岩壁を伝いなんとか滝全景を撮ることができた。


宇連ダムの穴滝1608uredam0210.jpg

宇連ダムの穴滝1609ure03.jpg
宇連ダムの穴滝1608uredam0211.jpg


下流のダム湖が枯れ果てているのが意外に思えるほどの豊富な水量。落下する水は一旦滝つぼに満たされた後、先ほどの小さな穴を通り外部へ排出されている。まさに秘境滝、いや隠れ滝。それにしても底の見えないこの淵、一体どのくらいの深さなのだろう。想像するとなんだか恐ろしい。

残念なのは昔、激安で購入した防水カメラ。苦労して滝に辿り着いたというのに広角が弱くもちろんスローシャッターもないためまともな写真を撮ることができず。さらに周囲に大きさを比較するものが何一つ存在しないため予想以上に大きかった穴滝の迫力や神秘的な空間の雰囲気も伝えきる事ができなかった。



翌日から大雨が続き枯れ果てていた宇連ダム貯水率は一気に回復した。数日後には貯水率50%を越え、幻の滝は再び湖底へと姿を消したに違いない。


[了]
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