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●2017年1月某日/消えた集落、大滝ダム白屋地区

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迫力ある堰堤が人々を魅了するダムは、
電源開発や下流域の防災の代償として多くの集落が水没を余儀なくされた一面も併せ持つ。
ところがダム湖に沈まぬ高所にありながらダム建設によって消滅した地区がある。
空撮で確認するとこの場所、現在家屋は全て撤去され残されたものは土台のみ、
廃屋のようなものは何一つ残されていないようで、正直それほど興味を引く案件でもない。
それでもわざわざ訪れてみようと思い立ったのは遡る事20年ほど前、
まだ生活が営まれているこの集落を歩いたことがあったからだ。


photo:Canon eos7d 15-85mm


寺社仏閣や遺跡の印象が強い奈良県。しかしその実態は面積の半分以上が紀伊山地が作り出す広大な山々に覆われた「山岳県」である。特に天川、野迫川に至っては秘境の地。今回の目的地はそんな紀伊山地北端に位置する奈良県川上村。google空撮を開けば村域のほぼ全てが山を示す緑の森林に塗りつぶされている。




寒波の影響で冷え込んだ冬の某日、紀伊半島横断の主要道、国道169号。冠雪した山々を望みながら蛇行する川に沿って進んで行くと谷間を塞ぐ巨大なコンクリート壁が現れる。これが2002年に完成した大滝ダム本体。堰堤を超えると急峻な谷間は水で満たされ淀んだ姿を見せていた。ダム建設中何度も通ったこの道、貯水後の姿を観るのは初めて。

ダム湖畔にある役場を通過、いくつかのトンネルを抜けた辺りで湖上に架けられた真新しい橋を渡る。ダム湖が完成する以前は川をはるか眼下に見下ろす高所にあった橋も、現在は谷間が水で満たされているため高さを感じる事もない。


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見上げるような急斜面に張り付く段々畑のような茶褐色の荒れ地。これが今回の目的地、旧白屋地区。現在は草原と化した斜面にかつて無数の民家が密集していた。
ちなみに現在自分が立つ橋の名称は「白屋橋」。国道と対岸の白屋地区を結ぶ目的で作られたものの、集落が消滅したことで意味を失った橋でもある。



橋を渡り、集落跡へと続く坂道へ入ると目の前に行く手を塞ぐような大きなゲートが現れた。
害獣よけと思われるゲート、開けっ放しだったので気にせずそのまま車を進める。すぐ脇には地元車と思われる軽トラが停められ数人が道ばたでなにやら作業中。急坂を登り続けかつての集落入り口に到着、先ほどの白屋橋とダム湖をはるか眼下に見下ろす非常に眺望の良い場所。


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急傾斜地の山岳集落で困難なのが駐車場の確保。徒歩の時代ならば問題なかったものの現在は山中での生活には車は必要不可欠、とはいえ新たな平坦な場所もなし。それを解決したのが支柱に支えられ空中に張り出す人工地盤。かつて訪れた山岳集落の聖地ともいれる四国、九州奥地でも、急斜面から張り出した共同駐車場を必ず目したもの。
ここ旧白屋地区も同様に集落下部に人工地盤による共同駐車場があった。持ち主の消えた駐車場跡は展望台として整備されていた。



粉雪舞い散る極寒の真冬に、山中の消えた村を訪れる物好きもいるわけもなく周囲に人の姿は皆無。車から降りると防寒着を重ね着、最上段目指しかつての集落跡に足を踏み入れた。


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集落は完全に消滅していた。
基礎部分だけを残し建物は何一つ残らず撤去され、生活を感じされるわずかな痕跡すら見当たらない。

山の斜面に土台と石段だけが残る城か遺跡のような光景は、わずか二ヶ月ほど前に見た長崎県野崎島の廃村を彷彿とされる。火の見やぐら、防火水槽をはじめとした消防設備だけが撤去される事なく残され、彩度の失われた光景の中で唯一鮮やかな色を発している。

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先述したようこの場所に足を踏み入れるのは今回が初めてではない。
遡る事20年ほど前、当時紀伊半島に点在する秘境集落、廃校巡りを行っていた自分は、その日もマニアックな場所を探し求め走行中、対岸に見えた訪れた崖に張り付く集落、それがこの白屋地区だった。



よく晴れた春の日だった。ひさし同士が触れ合いそうな民家の合間の路地、うららかな日差しが降り注ぐ開けた場所から眺める山々。まさに春の山村といった雰囲気の良い集落だった。その後、ダム建設は着々と進み次第に堰堤が積み上がっていくものの、湖面予定地からはるか高台にある集落が消滅するとは思いもよらず。


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当時の写真が残されていないものかと引っ掻き回しようやく画像が見つかった。メモによれば撮影日は1998年。もちろんデジカメではなくリバーサルフィルム。ところがフィルムスキャナーが見当たらないため取り込む事ができず、窓にフィルムを張りつけカメラで接写するはめになってしまった・・・。画像が汚いのはそのためです。


下記:在りし日の白屋地区を何枚か。

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奈良県川上村白屋地区1702shiraya02.jpg
奈良県川上村白屋地区1702shiraya04.jpg



画面で写真を開き、拡大すると懐かしい記憶がよみがえった。赤い屋根や草花の鮮やかな色彩、通路を歩く住民の姿。眼下を流れる川も当然貯水されていない。この後も集落やダム建設現場を時折訪れていたためまだフィルムがあるはずなのだが、管理の悪さ故見つ出す事ができなかった。



再び本日。春の日差しに包まれた20年前とはうってかわり寒風吹き付ける凍えそうな真冬の日。


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地形図によれば白屋集落が位置するのは標高350〜450m間の斜面。大滝ダム満水時の海抜値300mほどの湖面からはるかに上部にあたり、いわゆる「ダム湖に沈んだ村」ではない。それでもダム建設によって消滅してしまったのはなぜか。

紆余曲折の末ようやく大滝ダム堰堤が完成、2003年にダム湖に川の水を貯める試験湛水が始まった。
ところが湛水開始直後、はるか水面上にある白谷集落の地面に突如亀裂が生じ始めた。亀裂は次第に広がりこのままでは集落がダム湖へと滑り落ちてしまうかもしれない。そのため無数のアンカーを地中に打ち込む緊急補強を行うことで地滑りは食い止める事ができたものの、集団移転を余儀なくされてしまった。

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集落跡を登るにつれ周辺は背丈ほどの高さにまで成長したススキに覆われはじめた。
石段に覆いかぶさるような枯れ草をかき分け斜面を登り続け、アスファルトが敷かれた道へ突き当たった。この先、石垣は見当たらずここが白屋集落最上段となる。ダム湖を挟んだ対岸には現役の集落が見えた。



草原へと変貌した廃村でかつての痕跡のようなものは土台以外、何一つ見つけ出すことは出来なかった。雪雲が風に乗って次々に頭上を通過、天候がめまぐるしく変化する日。吹きさらしの高台でダム湖から吹き上がる冷たい風に煽られ心底凍えてしまった。

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ダム湖へ続く急斜面を車で下って行くと、往路、通過したゲートが閉ざされているのに気がついた。集落に滞在していた1時間ほどの間、人や車の出入りはなかったため先ほど見かけた軽トラの運転手が閉めて行ったのだろう。
このゲート、林道や牧場でよく見かける害獣避けのものなので施錠はされていないはず。簡易的に閉じただけだろうと、安易に考え車から下りゲートを開こうとするも鉄の柵は路上にがっちりと固定されびくともしない。押しても引いても抜こうとしても解錠することができず途方に暮れてしまった。

内側からは開ける事ができない仕組みなのか、あるいは鍵がかけられているのか。どちらにせよこのままでは廃村に閉じ込められてしまう。車を乗り捨て麓の集落まで歩き地元の方に解錠してもらう方法まで頭に浮かんだものの、ゲート単体だけではなく周囲にもに金網が張り巡らされているため乗り越えるのも一苦労。
なんとか外側に飛び降り、冷たい鉄の棒をひたすら触り続けるとコツがあったのか、前触れもなくロックが外れようやくのことで重いゲートを開け脱出する事ができた。観光客向けの展望台等が設置され一般に開放されている道の割にはハードルが高いゲートだった。




集落の移転先は帰路、偶然発見した。
ダム湖沿いの国道沿いで見つけた「白屋」と書かれた真新しい看板。先ほどの廃村と同じ地名に、もしやと思い道を外れ看板に従い急坂を登って行くと建物が姿を現した。最近建てられたらしい民家が山を削ったダム湖を見下ろすに密集している。公民館らしい建物には白屋の文字。

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帰宅後調べるとこの高台に移住したのは全員ではなく、村に残る住民、あるいは村外に出る住民、二つのグループに分かれる事を余儀なくされてしまったとのこと。
先ほどまで滞在していた旧集落はダム湖の奥、入り組む尾根に隠され望むことはできなかった。



その後次の目的地へ向かうためさらに山間部へ入ってはみたものの林道を進むにつれ周囲は雪に覆われはじめた。これ以上の探索は不可能。そんなわけで紀伊半島山間部から撤退。

[了]
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