●2017年10月某日/北海道徘徊03〜落日の大地〜
- 2017/12/05 23:36
- Category: 旅

秋の北海道徘徊二日目。
10月早朝、冷気に包まれる帯広を出発、点在するいくつもの廃校を巡りながら
秋の日差しに包まれる広大な丘陵地帯を走り続けた。
次の目的地は7年前の旅で到達できなかった小学校の廃校。
日没に間に合わせるべく、白糠山中の農道やダート道を西へ、
そして西日に包まれる逆光の森に、木漏れ日を浴びる赤い屋根の廃校が姿を現した。
photo:Canon eos7d 15-85mm
[前回の記事]
色づき始めた秋の森に残る山小屋のようなたたずまいのこじんまりとした平屋。
大正時代に開校し1967年に閉校となった霧里小学校跡。赤い屋根の煙突からはうっすらと白い煙が立ち上る。

廃校は現在キャンプ場として整備されているため校舎の扉を叩き管理されている方に挨拶。
かつてこの地で荒れ果てた霧里小学校に出会い、廃墟同然だった校舎や校庭を整備しキャンプ場として運営しながら住み続けているとのこと。
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深い森が続く現在地は建つ霧里(むり)と呼ばれる秘境。北海道でよく見かける難読地名の例に漏れず開拓時、先住民の読み方に漢字を当てはめたものだろうが、霧と里、幻想的な感じがこの場所にぴったりの地名。
長らく走り続けた道道は舗装路と共に廃校脇で終わっているが道はダートとなってさらに森の奥へと続く。現在、人家の気配もないこのような場所に小学校があったことにも驚かされたが、林道を遡った奥地にも集落があったと聞きさらに驚いた。
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木造校舎内部。日が傾き次第に冷え込みはじめた秋の夕刻、かつての教室を改装した室内は薪ストーブが赤々と燃えとても暖かい。キャンプだけではなく校舎内にも宿泊できると知る。他に客もおらず宿泊費は激安。


雰囲気の良い廃校にぜひ泊まりたい。普段の無計画旅ならば今夜の宿は即座にここに決めるのだが、残念ながら既に他の安宿を予約済み。秋の北海道の寒さにおびえ今回は車中泊やキャンプではではなく、すべての行程で宿を予約してあるためいつもような機動性を持った臨機応変の旅ができないのが悔やまれる。
こんな絵になる廃校に一人で泊まり夜空を眺めてみたかった。次回訪れる事があれば絶対に泊まろうと予定地リストにメモ。

奥地の廃校からひたすら南下、ついに太平洋に到達した。その海際に根室本線の無人駅、尺別駅がある。


無人駅ではあるが近くを幹線道路である国道38号が走り秘境駅というほどの山中ではない。しかし駅周辺は見渡す限り一面枯れ果てた茶色の原野が続く。そんな荒涼とした雰囲気に惹き付けられる。
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駅前に立つ。目の前に広がる光景は、枯れ果てた草原と数棟の廃屋。海からの冷たい風が吹き付ける寒々しい光景の中で唯一人の営みを感じさせるのは駅舎前にぽつんと立つ赤いポストだけ。
ホームにも人の姿は皆無。日沈直前、風に揺れる草原、電線、そして西へと伸びるレールが夕日を浴び輝いている。



線路をまたぐ錆び付いた跨線橋から見渡すとはるか先の草原に数棟の民家らしき建物が見えた。2017年現在、尺別駅の利用者はおそらくこの民家の住人だけではなかろうか。
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それにしても一体なぜこのような場所に駅舎が作られたのか。
その理由は炭坑。尺別駅から内陸へと遡った奥地にはかつて尺別炭鉱があった。尺別駅と炭坑は鉄道によって接続され、運び出された石炭の出荷によって尺別駅は隆盛を極めた時期もあったという。確かに過去の航空写真を見ると現在草原と化した空間に敷き詰められた軌道や転車台のようなものを見てとることができる。また廃屋が点在するだけの原野にも当時は建物が密集、いわゆる「駅前」を形成していた。



しかし1970年の炭坑閉山によって存在意義を失った尺別鉄道線は廃止、その結果、尺別駅はわずかの住民が利用するに過ぎないローカル駅のひとつになり現在に至る。財政難が報じられるJR北海道、駅舎の整理縮小が進むにつれ尺別駅も廃止対象として浮上する運命にあるのかもしれない。
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列車の来る気配もない無人のホームは一面植物に覆われたまま。それにしても寒い。冷たい風が吹き付けるホームで心底凍えてしまった。


波が打ち寄せる広大な太平洋を望む高台の荒野。断崖上のうねる丘陵に沿って一本の未舗装ダート道が続いている。
十勝沿岸と釧路方面とを結ぶ昆布刈石線。特に何かがあるわけではない、ただひたすら道が続くだけの空間だが北海道で自分が好きな場所の一つ。
尺別駅から大平洋沿いを走り久しぶりに訪れた。


最後にこの場所を訪れた際には舗装化工事が着々と行われていたため既にダート道は失われてしまったものだと思い込んでいた。しかしストリートビューで確認すると新道336号は昆布刈石線に平行して敷設されたらしく、ダート道は一部ではあるが残されていると知った。
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14年ぶりの昆布刈石線。新トンネルが完成したことで閉鎖された懐かしの厚内トンネルを横目に幹線道を外れ脇のダート道へ。土ぼこりを巻きあげながら急斜面を登り高台で車を停める。
土ぼこりをが治まると薄暮に包まれる広大な太平洋が眼下に広がった。ゆるやかな起伏に沿って延々と続くダート道。遥か西の先には北海道を南北に分断する日高山脈のシルエット。平坦な印象の北海道に似つかわしい荒々しい稜線は南へと続き北海道南端、襟裳岬を形成している。


断崖、空、水平線。広大な空間に存在するのは自分ただ一人。
二日間も旅を共にしていると借り物のレンタカーにも次第に愛着が涌いてくる。価格の安さだけで選んだ車種、旅はまだ中盤だがよく走ってくれた。さらに車体のコンパクトさゆえどん詰まりの林道でもUターンが容易。その小ささに何度助けられたことか。


せっかくなので三脚を立てセルフタイマーを使い車と記念写真。
するとタイヤが石を踏む音が遠方から近づいてきた。間抜けな姿を見られたくないので慌てて三脚を片付けてると渋い老人が運転するレトロな四駆ピックアップトラックの地元車が現れ、土ぼこりと共に低速で去って行った。荒野を進む四駆は絵になるなあ。時間さえ許せばやはり北海道は自分の車で走りたいもの。

新道が完成した事で旧道へ格下げされた昆布刈石線。それにしても十勝沿岸部と釧路方面を結ぶ唯一の幹線道路がつい最近までこのような状態だったことに改めて驚かされる。人気のない山中においても本州の感覚では信じられないほどの高規格道路が続く北海道でなぜこの場所だけが長い間手つかずだったのだろうか。
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昼前、進路を迷ったあげく阿寒湖の交差点を直進し道東に進んだため、予想通りとはいえ既に夜も間近。しかし今日の目的地はまだまだ遠く、遥か先に霞んで見える地平線のあたりなのだ。
車に乗り込み出発、どこまでも続くダート道、と思いきや残念ながら昆布刈石線はしばらく進んだ先で封鎖されていた。昔はさらに進んだ先に木製電柱が続くノスタルジックな光景が残されていたように記憶している。あの道はまだ残されているのだろうか。
ダート道と接続されていた新道336号へ入る。二車線道路のできたての道を西へと走り台地の果てへ行き着いた。長い下り坂に差し掛かると前方の視界が開け雄大な風景が広がった。

薄暮に包まれる十勝川が作り出した広大な平野、点在する湿地のような湖水が空を反射し赤く輝いている。その中央をどこまで続く国道336号。あまりに雄大な光景に北海道を実感した。
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日暮れを追いかけ原野を西へと走り続ける。ひたすら続く緩いアップダウンの国道上に車の姿は皆無。この道中すれ違った車はわずか一台のトレーラーのみ。まさに大陸を感じる荒野の世界。
日没後、空の赤みはみるみる増して行く。走れど走れど空の赤、地面の黒、二色の世界。宇宙に吸い込まれそうな十勝平野の南端を地平線へ向かい走り続ける。



午後5時、どこか名も知れぬ牧場で車を停めた。
日没後に広がる幻想的な空を背景に木々のシルエットが浮かび上がる。最後の赤みが広がった後、周囲は急速に闇に包まれて行った。

ヘッドライト以外の明かりが皆無の漆黒の空間を走り続けようやくのことで今夜の宿泊地へと到着した。
場所は太平洋に面する大樹町の海岸沿い。周囲には何もない真っ暗な海辺で街灯に照らし出されたのは鉄筋二階建ての建物。塗装されているもののどこか学校を思い起こさせる外観。これが今夜の宿泊先。農業研修センターを改装した宿となる。
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宿は素泊まり激安、しかも温泉が隣接。夕刻に出会った廃校も魅力的だったがこちらも良い。暖房がよく効く客室で、音別町付近のセイコーマートで購入しておいたカップラーメンを食べる。音別町から宿まで海沿いを70キロあまり、ここに至まで一店のコンビニも見あたらなかった。
深夜、宿から出て海へと歩く。規則的に波の音が響きわたる夜の海。

夜空を撮ってはみたもののカメラの設定を間違え、ピントが甘い写真だということが帰宅後に判明。むりやりシャープをあげたのでざらざらのひどい有様なのだ。
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三日目。大樹町で夜が明けた。

夜間に降雨があったようで水たまりを避けながら冷気に包まれた草原を歩き海に出る。
目の前に広がる太平洋の水平線が少しづつ白み始めた。
[続く]
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