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●2012年6月某日/おすすめしたい本。吉村昭を読む

  • 2012/09/25 21:23
  • Category: 私事
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大雨によって飛行機のダイヤが大幅に乱れたとある日。
暇を持て余し待合室にあった本屋で作家吉村昭の小説に手を出してしまった。
彼の本の購入は一体これで何十冊目だろう。
部屋に大量にストックされた吉村昭のおすすめ本一覧も掲載。

photo:Canon eos7d 15-85mm

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今回空港の本屋で購入したのは「戦史の証言者たち」 (文春文庫)。吉村氏が歴史小説を書く際、取材した事件の当事者から行ったインタビューをまとめたもの。インタビューは録音されていたため生々しい肉声がそのまま文章となりリアリティを増幅されている。
本に登場するストーリー「戦艦武蔵」「海軍甲事件」始め、過去に読んだことがある内容のため事件の裏話や登場人物の人柄などがこと細かく書かれ非常に楽しめたが未読の方にとってはいまいちかもしれない。

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一気に読み終えた。あいらわらず淡々としながらも、いつの間にか引き込ませるのがうまい。
特に瀬戸内海で沈没した潜水艦、伊33潜の引き上げ描写はインタビューながらも鬼気迫るものがある。
過去に読んだ「総員起シ」で事件概要を知っているとはいえ、引き上げと同時に艦内に侵入した新聞記者が見た、密封された船内で生きているかのように8年間「保存」されていた水兵達の遺体描写には圧倒される。

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「戦史の証言者たち」が書かれた1980年代は太平洋戦争に従軍、生還した元兵士達が現役で働いていた時代。
実際に本書に登場する元兵士や元将校達も、取材当時はそのほとんどが会社勤めの身。そのためか皆、記憶も鮮明でインタビューにしっかりと答えている。先日、第1次大戦最後の兵士が死去したというニュースを見た。太平洋戦争(第2次大戦)の兵士達から体験談を聞くことができるのもあとわずかの期間だろう。

自分もかつて祖父に一度だけ戦争体験を聞く機会があった。小学校時代「身近な人に戦争体験を聞こう」という子供にとって面倒くさい宿題が出てしまい、とりあえず電話をした祖父から「大東亜戦争」という言葉を聞いたことが、強い印象に残っている。

「ああ大東亜戦争の話かね。」と言った祖父。

戦争と言えば太平洋戦争だと思い込み「だいとうあ」って何?と聞いた小学生の自分に「おおきい、ひがし、アジアのあ、を漢字で書けばいいんだよ」と電話の向こうから丁寧に説明してくれた。
当時は昔話に正直興味が湧かず適当に話を切り上げてしまった。その数年後に祖父は亡くなり、戦争の話しはそれきりとなったが遺品のアルバムから大量に出てきた出征中の中国戦線であろう写真を見て、もっと話しを聞いておけばと今になっても本当に悔やまれる出来事。



さて吉村昭。自分が初めて彼の本を読んだのは中学生の時。友人宅でマンガに読み飽き本棚に転がっていた「高熱隧道」(たぶん親父の本だろう)を手に取り数ページ流し読みすると完全に虜になってしまった。その後も機会あるごとに彼の本を集め続け気がつくと50冊近くになっていた。そんなわけで適当に選んだ勝手な吉村昭おすすめリスト。

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●大本営が震えた日
12/8に決定された開戦に向け、日本陸海軍はアジア太平洋で密かに移動を始めていた。
綿密に張り巡らせた計画ほど、わずかなほころびで破綻する。そんな緊張感張り詰める東京の大本営に驚くべき知らせが届く。開戦機密書類を載せた飛行機が敵地である中国領内に墜落したというのだ。これが敵に渡れば密かに進めてきたハワイ、マレー奇襲計画はもろくも崩壊する。パニックに陥った大本営は飛行機、日本人乗員もろとも文書を消滅させようと友軍墜落機に爆撃をくりかえす。
そんな中、墜落と爆撃を生き延びた生存者の将校は中国軍包囲網を突破しようと一人敵中で苦闘する。という実話。


●高熱隧道
戦前、人跡未踏の秘境に建設された黒部川第三発電所工事現場へ通じるトンネル掘削の実話がベースになっている。
丹那トンネル掘削を題材にした「闇を裂く道」と同じテーマであるがこちらはいろんな意味で熱い話。
わずか数十mで放棄されたトンネル工事現場を引き継いだ担当者が坑道で見たものは目を疑う高熱地帯だった。掘り進むにつれ80℃、120℃と岩盤温度は恐るべき上昇を示すも、一旦動き始めた工事はもう誰にも止められず、次々に死者を出しながら、法律をも無視し、半ばやけくそで突き進む。
火薬が暴発する灼熱のトンネルから外に出れば今度は真冬の黒部の恐怖。莫大なエネルギーを持った泡雪崩が宿舎を作業員ごと対岸へと吹き飛ばす。映画で有名になった戦後の黒四ダム建設がかわいくみえるぐらいの過酷な工事。
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●海の史劇
主にロシア側からみた日本海海戦。大声援に見送られアフリカを回り延々と日本を目指すバルチック艦隊。
気まぐれな司令官。アフリカ沖の酷暑。停泊したままの艦隊。さらにイギリスの執拗な妨害によって次第に士気は下がっていく。日本海に到着する頃には疲労紺倍であっただろう。
15年くらい前、パキスタンのペシャワールという怪しい町の安宿で読みふけったので、読み返すと町に響いていたアザーンを思い出す。個人的にはのちに読んだ司馬遼太郎の「坂の上の雲」シリーズよりもこちらの方が読み応えがあった。
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●羆嵐
7人がヒグマに惨殺された三毛別羆事件の模様を描いた作品。ネットがある現在こそ、三毛別羆事件はわりと知られるようになったが、購入当時知っている人がほとんどいなかった。10年ほど前、北海道で事件現場を尋ねたことがある。近くに資料館のようなものがあったので寄ってみるとあまりやる気のない展示品に脱力してしまった。今はどうなっているだろう。


基本的に実話をテーマにしたものが多い吉村昭の作品だが、安部公房の「砂の女」が大好きな怪しい集落マニアとしては下記二つもおすすめしたい。共にのフィクションではあるが、歴史的事件をモデルとした内容となっている。

●破船
江戸時代、貧困にあえぐ海辺のとある集落では恐るべき秘密の風習があった。沖合を通過する帆船を人為的に難破させ乗組員を皆殺しにすると、米、衣類などの積み荷を奪うのだ。船は即座に解体され秘匿、奪った積み荷によって集落の人々は数年間の「裕福」な暮らしを保証される。彼らは船を神とあがめた待ち望んだ。
物語の舞台は地形からしておそらく佐渡島であろうが、1830年に伊勢で起こった波切騒動をモデルにしたと思われる。難破船から積み荷を奪った漁民の勘違いがさらなる悲劇を生んだこの事件について吉村昭は「朱の丸御用船」を書いている。

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●水の葬列
戦時中、撃墜されたB29の残骸を探し山中に分け入った部隊によって江戸時代そのままに暮らす落人の集落が発見される。人跡未踏の深い山中で村人は一体どのように暮らしてきたのか。
戦後集落周辺にダム計画が持ち上がり、彼らと電力会社との立ち退き交渉が開始される。ダムに水没することになる集落の悲劇が雨、水、霧のシーンを多用し幻想的に書かれてる。かつて徳山村などダムに水没する地域を巡った自分にとってもつい引き込まれてしまうとにかく湿っぽい作品。




山中をドライブしていると、なぜこんなところにと驚かされる立地の集落に出会うことがある。そんな時はついこれらの作品に登場する排他的な集落の作品をつい思い出してしまうのだ。

集落ついでに児童書ながらズッコケシリーズの一冊、「ズッコケ山賊修行中」もおすすめである。日本の「田舎」と呼ばれる地帯を長年にわたり密かに支配する土ぐも族の恐怖はいまだにトラウマになっている。山深い集落を通過中、場違いな我が車のナンバープレートをじっと見つめる村人とすれ違うと、既に土ぐも族へ通報されてしまったのではと恐怖してしまうのだ。

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吉村昭おすすめ一覧を適当な感想と共に羅列してみた。最近は本や図録は購入せず図書館でかりて読むという貧乏くさい行為が増えたが吉村昭だけはつい購入してしまう。それだけ外れの少ない作家なのだ。数年前亡くなったのが惜しまれる。

[了]


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