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●2020年9月某日/頂に広がる廃空間、失われた牧場の夏。

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どこまでも続く山塊、深い谷。険しい山岳地帯が続く新潟、長野県境付近。
断崖によって下界と隔てられた台地上に広大な原野が現れる。
その中心には数本のサイロ、そして崩れ落ちた建物が廃墟となった姿をさらしている。
例によって衛星写真をスクロール中に見つけた不自然な空間と
特殊な地形に惹かれ昨年の晩秋に訪れたのがこの場所、かつてのT牧場跡だ。

北海道を彷彿とさせる広大で美しい丘陵光景と廃墟のミスマッチな組み合わせに惹きつけられ
再び再訪した牧場跡は秋から一転、季節は巡り緑に包まれていた。
車を停め広大な原野で一日を過ごす。


秋の訪問記録

photo:Canon eos7d 15-85mm
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。


山々に挟まれた急峻な谷間を縫うように走る県道。下界から牧場跡は視認できず、見上げるような山上に平坦な原野が広がっているとは、想像もつかない。牧場といっても牛が放牧されているわけでもなく、ましてやソフトクリーム目当ての観光客がいるわけでもない。人知れぬ台地上に立地し、さらに唯一のアクセス路である林道も行き止まりとなっているため通り抜ける車も皆無。



県道から離れ斜面に刻まれた急勾配の林道を登り続ける。やがて勾配が緩むと視界が開け広大な空間が広がった。
T牧場跡に半年ぶりに到着。前回は紅葉に包まれていた秋の牧場跡、季節は巡り9月の本日は緑の空間へと変化していた。草原の中央には崩れ落ち廃墟となった牧場施設が点在している。

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半年ぶりに現地を訪れ驚かされたのは廃墟周辺に以前は存在しなかった真新しい人工物が目に入ったこと。
その正体は廃墟の周囲に立てられた、のぼりや看板。朽ち果て彩度の低い建物とは対称的にイベント会場を思わせるカラフルな色彩が非常に目立つ。

廃牧場への立ち入りを制限する看板なのだろうかと、旧牧場道路を徐行し車を近づけるとそれはトレッキングコースを示す案内だった。廃墟群内部を突き抜ける何本かの古びた通路。以前は公道なのか私有地なのか判別が付かなかったため、立ち入らなかったが地元自治体からトレッキングコースに指定されたことで、堂々と歩くことができるようだ。

鳥甲牧場2009kfarm03.jpg
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帰宅後、調べると牧場を含むこの一体、特殊な地形と地質を売りに観光地化をめざしているらしくT廃牧場もトレッキングコースに指定されたようだ。とはいえ指定されて間もないためか、知名度も低いようで今回ほぼ丸一日に渡り廃牧場に滞在したがまったく人の気配はなく広大な空間を独り占めできた。



T廃牧場の特筆すべき点はその立地だ。深い谷間や峡谷が複雑に入り組み、険しい地形が形成される新潟長野県境の山岳地帯。そんな場所の台地上に突然現れる広大な平原、標高1086m。

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見下ろすと牧場跡が下界と隔絶された空間であることが一目瞭然。谷底と廃牧場の標高差は500m近く、深すぎて視認できないが、遙か眼下の谷底には、先ほどまで車を走らせていた渓谷沿いの県道がある。
山々から北側へ向かい舌のように突き出た平坦な台地、その中心のサイロ群。牛の木陰用として伐採を免れたと思われる草原の灌木はまるでサバンナを思わせるポイントとなっている。

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昨年秋この場所を訪れたのは、衛星写真がきっかけだった。山中にある広大な草原に違和感を感じ画面を拡大していくと崩壊したと思われる何らかの施設がいくつも映し出されていた。怖い物知らずのgoogleストリートビュー撮影車もここへと迷い込んだようで廃墟の様子が見事にストリートビューの画面に映し出されてされていた。



草原の中心を通過する印象的な一本道、ゆるやかな丘陵を登りきったその先にT牧場跡全体を見渡すことができる小さなスペースがある。車を停め窓を全開に吹き込む風を浴びながらぼんやりと過ごす。

9月とはいえ季節はまだ夏。猛暑に包まれた下界とは対称的に風が吹き付けるここは別世界のようだ。南から吹き込む気流が長野県の山岳地帯で雲を湧かせ、新潟県の平野に乾いた空気を流し込んでいくでいく。この場所はちょうどその境目にあたり、南北でまったく違う天候となっていた。

一本道はここからダートとなって南にそびえる山裾へと消えている。以前このダート道の奥はどのようになっているのだろうか、といつもの林道探索のつもりで気軽に車で乗り入れてしまい、免許を取ってから数回あるかないかのひどい目にあったため二度と入るつもりはない。

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牧場施設跡の中心にあった数棟の大型木造建築は崩壊し地面にはバラバラとなった木材が散乱している。
このように中心に向け建物が圧壊してするのは雪圧の特徴だと思われる。緑に包まれ風が吹き抜けるさわやかな夏から一転、冬場は厚い雪に覆われ厳しい世界に包まれるはずだ。



前回も書いたがT牧場跡は、完全に見捨てられた空間というわけではない。広大な牧場跡の一部は閉鎖後、農地となり現在も農作業が営まれており今日もはるか彼方で動く一台の作業車が見えた。
また崩れ落ちた牧場施設も完全な廃墟というわけではなく、農家の方が使用する重機駐車スペースとして利用されているようだ。
過去の航空写真と比較すると、牧場閉鎖後、耕作地の敷地は次第に広がっているようでやがて原野だった牧場跡もいずれ丘陵畑へと生まれ変わるのだろうか。

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牧場跡から見下ろす谷間はわずかな平地や斜面に張り付く秘境集落の点在地。冬場は豪雪に見舞われるこの地においてはるか古代より身を潜めるように生活が営まれてきた。平地というものがほとんど存在しない傾斜地のため、麓の村々で盛んな水田すら作ることもできない厳しい暮らし。

それらの集落から見上げるようにそびえる頭上の山を登った先に広大な平地が空間があることはどの時代に「発見」され開拓が始まったのだろうか。戦後直後に撮影された航空写真を見る限りこの台地は木々に覆われた原生林のような状態に見える。一方で1970年頃にはすでに切り開けれており、開拓が行われたのはこの間と思われる。

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広大な空間は時間によって様々な変化を見せる。日はやがて西の空へと傾き、草原に点在する灌木やサイロが長い影を描く。日没が近付くにつれ西の空に新たに湧いた雲によって太陽は遮られ、周囲は次第に薄暮に包まれていった。

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原野に停めた車内でツーリングマップルを開き今後の予定を思案、幸い下界で買った食料、シュラフなどの車中泊グッズは車内に搭載してあり場合によってはこの場所でこのまま車中泊してもよい。



そんな事を考えていると薄暗い空間が明るみを帯びた。フロントガラス越しに外を眺めると薄い闇が広がる空間に雲のわずかな切れ目からオレンジ色の光が射し込んでいるのが見えた。

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光は廃墟となった牧場群を浮かび上せると1分ほどで消え去り日没を迎え夏の一日は終わった。

結局別の予定場所が見つかったためこの場所を発つことに決める。上空にはまだ赤みが残るが既に原野は闇に包まれている。車のライトを点灯させるとほぼ一日を過ごしたT牧場跡を後にした。

[了]



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