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●2021年10月某日/とある工業都市の光景。

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日本最高峰富士山。その広大な裾野には対称的な風景が広がっている。
樹海と演習場が続く北側、一方南側沿岸部には重工業地帯が広がっており
煙突、煙、その合間から顔をのぞかせる富士山といった光景が続く。
新幹線で付近を通過中に車窓から見えるお馴染みの光景ではあるが、
写真集で美しい富士山しか見たことのない人にとってはミスマッチに思える組み合わせかもしれない。
今回は富士山裾野に広がる工業都市をストリートビューを駆使し徘徊した。
静まりかえった深夜の街で休むことなく煙を吐き続ける躍動感溢れる工場群。
昼、夕刻、夜。刻一刻と変わる工業都市の風景をランダムに掲載。


photo:Canon eos7d 15-85mm

富士山と工場。写真集やイメージフォトではうまくトリミングされているがこれもまた現実の風景である。数年前に登った槍ヶ岳は下界からは視認できない隔絶された奥地にそびえていた。しかし富士山が存在するのは東海道の大動脈沿線にあたるため古来から人々の目を引き、現在ではその裾野は居住地や工業地帯が混在、高さの割にアクセスも良く割と敷居が低い山でもある。



今回の徘徊のキーワードとなる二つの写真集が手元にある。ひとつめが畠山直哉氏の「Lime Worksライムワークス」。工場鉱山に惹かれ始めた頃、新宿の書店で衝動買いした工場写真集の初版。大判カメラで撮られた緻密で計算された構図に衝撃を受けた。もうひとつは異質な富士山写真集、藤原新也氏の「俗界富士」。実際に富士山を見上げると、看板、電線、煙突、送電線といった「日本の景観」が視界を遮っているのが現実。この写真集はそれらを排除すること無くリアルな日本の景観の中にある現代の富士山を撮った。

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秋の某日、某市に降り立った。まだ冠雪していない富士山を背景に入り組んだ街並みが続いている。特に高層ビルも見当たらないこの街で目に付くのは至る所から飛び出す煙突群。google空撮をざっと眺めただけでも沿岸部に無数の工場が存在していることがわかる。
夕暮れ時、斜光が富士山斜面の赤茶けたエッジを際立たせる。最後にあの山頂に立ったのは15年ほど前のことだ。まもなく日も沈み工場徘徊がスタート。



混在する工場と民家、その合間を縫うように道路、鉄道が走るこの街では24時間休むことなく煙を吐き出し続ける工場と生活が共存している。そんな工場のひとつN製紙工場前に立つ。

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時折、車が猛スピードで走り抜ける車道の両側はシルバーに輝くプラント群。縦横無尽に入り組む無数のパイプの一本一本がどのような意味を持つのか素人の自分にはさっぱりだ。目が慣れると闇に沈む漆黒の富士山のシルエットが工場越しにかすかに見えた。



O製紙工場。工場を一望できそうな正面に立ってみたがプラントが横並びに整列する単調な光景。面白みの欠けるフラットな構図だったため、予めストリートビューであたりをつけておいた工場裏手へと移動した。

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幹線道路から分岐する怪しい路地へと足を踏み入れる。もちろん公道ではあるが頭上を無数の配管が横切るため一見工場の敷地に思えてしまう。



このように一般道との境界線が曖昧な工場は国内各所で時折見かけるが、まるで構内にいるかのような雰囲気を味わえる穴場でもある。今でも覚えているのが十数年前、訪れた大分県津久見のセメント工場群。構内と公道が入り交じる非日常的な光景に驚かされたが現在では市公認の工場撮影スポットに変貌したようだ。

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表側とは変わり、裏側路地から眺めたO製紙は入り組み、立体感溢れる表情を見せていた。
そんな路地の奥には小さな神社が鎮座している。ここもストリートビューを駆使し見つけた場所。黒々とした木々に覆われた闇に沈む境内からは予測通り鳥居と躍動を続ける工場群といったアンバランスな光景を望むことができた。

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規模は小さめながらひときわ輝くプラントが周囲を照らすK製紙工場。水路沿いに建つため対岸からよく眺めることができる。この時間帯は車の往来も皆無、工場鑑賞にはぴったりの場所。ただしガードレールもない細道が続くため、夜景に見とれ夜の水路に落ちないように注意が必要だ。

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東横イン富士駅2110fujiplanttsuika01.jpg

ビジネスホテルの窓からは深夜になっても煌々と電気を点し続け休むことなく稼働を続ける工場群が手に取るように見える。この灯りの下で無数の人々が働き、この街の経済を支え続けているのだ。



今回徘徊した工業都市には工場の合間を縫うように走り抜ける小さな鉄道がある。
無人駅舎と周辺工場が作り出す荒涼とした光景に魅了された。


工場、資材置き場、空き地が続く殺風景な空間の片隅に小屋のような建物が立ち尽くしている。月明かりに照らし出されるこの建物は鉄道の無人駅駅舎。外部へとひっそりと漏れる改札口の青白い光が鉄道が運行中であることを示している。

岳南電車比奈駅2110gakunanrailway09.jpg
岳南電車比奈駅2110gakunanrailway08.jpg

訪問日がたまたまなのか、普段からこのような様子なのか、最終電車にはまだ時間があるが無人駅の駅舎とホームには誰一人利用客の姿はない。それどころか広大な駐車場にも、さらには近くの踏切にも往来する車は一台たりとも見当たらない。まったく人の気配は感じられない不思議な空間。

岳南電車比奈駅2110gakunanrailway05.jpg
岳南電車比奈駅2110gakunanrailway01.jpg
岳南電車比奈駅2110gakunanrailway03.jpg

蛍光灯の青白い光がホームの鉄骨を浮かび上がらせる。工場、倉庫に囲まれた貨物駅のようなこの無骨な光景は、かつて紹介した大阪の荒廃した秘境駅木津川駅を彷彿とさせる。【→LINK

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人の気配が皆無の無人空間とはいえ周辺は静まりかえっている訳ではなく、夜も休むこと無く動き続ける続ける工場の稼働音が闇に低く響き渡る。やがて踏切の警報音が鳴り出すと闇の彼方から彼方から車両のライトが近付いてきた。



上記の駅に限らず、この鉄道沿線には立地、建物ともに魅力を感じる無人駅が多い。背後に巨大な工場の壁面を有した無人駅。水たまりに映し出されるのは闇に浮かぶホーム、そして工場の壁面。はい回るツタの蔓はやがて壁面を緑に変えていくのだろうか。

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岳南電車原田駅2111fujisiplanttsuika004.jpg

こちらの駅からは操業中の工場を間近に見ることができる。ホームを発車した車両は工場の構内へと吸い込まれるように去って行った。



最後に工業都市を走る小さな鉄道に乗車してみる。路地を彷徨い工場に埋もれるように建つ古びた始発駅の駅舎に到着した。夕日が沈んだ頃、ホームの端に立つと、街の至る所から伸びる煙突のシルエットと点滅する航空障害灯が見えた。このような工業都市で幼少期を過ごしたこともないのに、夕日と煙突の組み合わせにノスタルジックさを感じるのはなにかの刷り込みの影響なのだろうか。

夜景電車2110gakunanrailway014.jpg
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夜景電車2110gakunanrailway018.jpg

乗り込んだ古びた車両は車体をきしませながら工場の合間や構内、住宅地をすり抜けていく。今時珍しく窓を開けても良いとのことで吹き込む秋の夜風を浴びながら入り組んだ工場風景を間近に感じることができた。



日の出前、富士山の巨大な裾野が赤らみ始める。やがて稜線から朝日が昇り煙、煙突、続いて工場が朝の光に包まれた。朝、昼、晩、24時間休むことなく排出される煙。毎日くり返される街の暮らしを支え続けている躍動感溢れる光景。

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N製紙。川向こうの巨大な工場には灯りのひとつなく巨大な姿をずっしりと闇に沈めている。唯一の灯りは車道脇の蛍光灯。このような巨大工場にも休業日があるのだろうか。

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富士市日本製紙ユニテック廃墟2202fujicity02.jpg

日中、工場横を通過した。しかし構内からは音も動きも人の気配も感じられない。また無数の機械類も錆び付き操業している気配は皆無。

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日本製紙ユニテック富士本社2110fujiplant0106.jpg

よどんだ川の対岸にそびえ立つ茶褐色の工場、驚くべくことに廃工場だった。ここまで巨大な廃工場は昨今なかなかお目に掛かることもできない。柵の隙間からは植物に覆われた朽ちゆく施設が見えた。よく見ると一部では解体作業も始まっているようで、建物はいずれ消滅するのだろう。

富士山と寺2110fujiplant0107.jpg
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今では市民権を得た工場写真や工場夜景。しかしこのような写真を撮り始めた頃は工場に向けカメラを構えていると怪しまれることが多々あった。工場写真を撮る=反対派だと思われていたようで、「かっこいいから」と答えると皆拍子抜けした感じで中には喜んでくれる作業員や警備員もいたものだ。

今回訪問した街は自治体発行の工場夜景マップなる便利なパンフレットも用意され、一度も誰何されることもなかった。夜景マップに掲載されていた有名ポイントにプラスしてgoogleストリートビューを駆使し徘徊を続けたが、結局工場が広範囲に広がっていたため予定していた場所の半分も回り切ることができなかった。

[了]


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