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●2022年4月某日/削られた山塊、人工渓谷を見に。

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地形が好きだ。例によって変わった場所を探すべく
空撮や地理院地図の等高線を眺めていると、また気になる地形を見つけてしまった。
山が連なる中腹を大規模に削り取った斜面とその中を曲がりくねる車道らしき線。
おそらく採石現場らしき空間であり、どうせ立ち入りもできない場所なのだろうと
なにげなくペグマンを下ろすとこの道で撮影されたgoogleストリートビュー画像が表示された。
怖い物知らずで林道をも突き進むストリートビュー撮影車は
近年の秘境探索の大きな助けになっている。
ということで一般車両も通行可能と判断、現地での様子を簡単に紹介。


photo:Canon eos7d 15-85mm
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。


森へと消えゆく林道を彷彿とさせる山道。道は目的地で行き止まりとなってるため、山から降りてくる車両は一切ない。入口に看板があったため近付くと、それは通行止めを示すものではなく熊出没を警告する内容だった。

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道は山道とは思われぬほど広く、舗装もしっかりとなされている。ただし車両の通行もないのか、路面は枯れ枝や葉で覆われ、どこか荒れている印象は否めない。
山道は次第に高度を上げていき山林が途切れ視界が広がると覆い被さるように切り立った地形が現れた。目的地に到着。とはいっても事前にストリートビューで予習済みのため実際の所それほどの驚きはなかったが。



説明下手なので地図で紹介。延々と続く山塊がざっくりと掘削された地形となっている。

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現在地である谷底入口から見上げると法枠工で固められた切り立った断崖は明らかに人工的に掘られたもの。崖の各所にはコンクリート構造物が張り付ているのが見える。とはいえもちろん作業も行われてはおらず、人の姿はいっさい見当たらない。

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見上げると掘削された斜面にヘアピンカーブを繰り返す車道が張り付いている。車道は構造物脇を通過後、さらに続いており遙か上段、空との境目にも白いガードレールがわずかに見え隠れ。一方で路面からは苗木が顔を覗かせており、急峻な崖と荒れ果て荒廃した雰囲気はまさに人工渓谷。

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人工渓谷の見所は短いトンネル。仲良く列んだ2つの黒い坑口(下記写真)は一見、高速道路などの上り下り分離車線に見えるが実は同じトンネルの出入り口、両者はわずかの距離で繋がっている。ということは内部はU字型の急カーブを描いているということ。

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トンネル内部。もちろん灯りなどはなく闇に目が慣れるとその変わった構造が浮かび上がった。曲面で覆われた闇に立つと巨大な筒の中に入れられた気分。簡素なトンネル内で唯一施工者の親切心を感じさせられるものは頂点部分に設置されたカーブミラーくらい。



普段変わった隧道を目にしても、狭い内部では通過車両のリスクがあるためわざわざ撮ろうとも思わないが、ここはまったく車両の気配がないため、安心して観察することができた。実際ここに滞在中、一台の車も通過することはなかった。

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U字トンネルは高低差を短距離で克服するため急勾配となっている。引いた状態で両坑口が入るように撮ると両者の高低差と勾配がわかる。簡易的な構造のトンネルながら、曲線で構成された空間が浮かび上がると思わず無骨な現場にそぐわない優雅な雰囲気をも感じてしまった。

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見下ろすとトンネルは地盤を掘削したというよりも筒を設置した後に盛り土をかぶせたようにも見える。
不思議なU字トンネルを抜け、さらに登り続けるとアスファルトの路面は次第に荒れ始めた。また伸び放題となった葉や枝が車道に覆い被さり嫌な音を立て車体をこする。しばらく急勾配の道を上ると先ほど谷底から見上げたコンクリート基礎最上段へ到達した。

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構造部内部の空洞、ダンプが転回できそうな広めの路面。ここは採石した岩石を落とすホッパー施設跡だろう。真下には落下した石を受け止め集約すると思われる堰堤のような壁も見え、やはりこの人工渓谷は採石場の跡だと思われる。



ヘアピンカーブと上り坂はホッパー施設からさらに上段へと続く。崖の勾配も増し斜面は法枠工で固められ維持されており、ガードレール越しにおそるおそる見下ろすと目の錯覚で現実以上の傾斜を感じてしまう。

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ようやく勾配が緩み等高線に沿ってトラバースする眺望の良い道が続く。やがて到着した最上段は砂利の平地となっていた。一舗装されていた路面もここからはダートとなっており、ストリートビュー撮影車もここで引き返している。
切り立った崖際に立つと眼下の渓谷、そして連なる山々が見えた。断崖に張り付く車道を始め非日常的な荒々しい光景が広がる場所は、ロケ地としても使用できそうだ。

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それにしてもなぜ採掘は休止、放棄されてしてしまったのか。情報がないのであくまで想像となるが・・・まずはこの人工渓谷、採石場で間違いないと思われる。そして山のふもとにはダムがある。
ダム建設にあたっては膨大なセメントが必要となるため、資材調達先として付近の山々から採石が行われることが多く、時々訪れる八ッ場ダムにおいても10キロほど離れた山が石や砂など骨材の採石地となっており堰堤までベルトコンベアで繋がれていた。
ここもダム建設時、セメント用の採石場に選定された結果このような地形ができあがったと思われる。妙に幅員が広い山麓の山道は輸送用として整備されたのだろう。そしてダム完成とともに、谷は使命を終え予め義務づけられた緑地回復が行われているのではないか。もともと永続的に使用するものでもないため、トンネルも簡易的な構造が選ばれたのだろう。

ちなみに先ほどの最上段は現在、某山登山の起点となっているようだが、あまりにマイナーな山のため、このルートで訪れる登山者もほとんどいないようだ。



以前の航空写真と比較すると渓谷は明らかに人の手によって植栽がなされており、採掘完了後は山を再び自然に戻すべく作業が行われたのだろう。

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自然の回復力は旺盛でガードレールを飲み込み成長を続ける苗木もある。人工渓谷もやがて森へと戻り、眺望と荒々しい姿は失われていのだろう。
帰路、山を下り満々と水をたたえたダム湖を通過した。ここから削り出された材料は現在、堰堤へと変化し膨大な水を支えている。この堰堤を元に戻せばあの空間にぴったりと収まるのだろうかと妙なことを妄想してしまった。

[了]
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