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●2022年8月某日/富士山標高2,000mのワゴニア。高所で力尽きた謎の廃車。

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久しぶりに富士登山を行うことになりそうなのでGoogleMapを眺めていると
富士山斜面上に「朽ち果てたグランドワゴニア」なるラベルを偶然見つけた。
ワゴニアなるものが何を意味するものかまったくわからず開いてみると
標高2,000mを越えた富士山斜面に廃車となって棄てられたままの
グランドワゴニアと呼ばれるアメ車を意味しているようだ。
通常の登山ルートから外れているため人目に付くこともなく
知られるようになったのはここ数年のことだという。
富士山には何度か登頂しているがこのような廃車の存在をまったく知らなかった。
世界遺産の名のもとに年々登山ルールが厳しくなる富士山、
一方で撤去されることも無く棄てられた廃車。
そんな違和感に驚きを受け、富士登山よりもワゴニア探索を優先してしまった。


※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。


美しい円錐形の富士山、日本人ならば青と白で塗り分けその姿を描くことだろう。しかしその実態は溶岩と火山灰が積み重なって形成された成層火山。もちろん山肌は青くはなく赤茶けた火山灰と岩の集合体だ。

今回の目的地へのアクセスは登山道を外れたバリエーションルートとなるため登山用装備で出発。遠目にはなだらかに見える富士山も実際には荒々しい起伏が連続、スコリアと呼ばれる堆積した火山灰に足を取られながら、深く切れ込んだ涸れ沢を乗り越え歩き続け、ついにそのシルエットが見えた。

富士山ジープグランドワゴニア2208fujiwagoneer0101.jpg
富士山ワゴニア2209fuji002.jpg

火山灰が滞積し形成された急勾配の尾根、そこにある一台の車両。富士山頂上を目指したのか、フロントを山頂側へ向けたまま静かに停止している。このような場所にもちろん車道などあるはずもなく、その姿と違和感に強いインパクトを受けた。
これがグランドワゴニアと呼ばれる旧車の姿。

富士山ジープグランドワゴニア2208fujiwagoneer0103.jpg
富士山ジープグランドワゴニアとご来光2208fujiwagoneer0104.jpg
富士山ワゴニアと朝日雲海2208fujiwagoneer0105.jpg
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ワゴニアが棄てられているのは富士山の標高2,050m付近、草木も生えない荒涼とした高地。あまりに広大なまるで砂漠を思わせる日本離れした光景。
火口から吹き上げた火山灰を周囲に降り積もらせ成長を続けた富士山は巨大な円錐状に裾野を拡げており、見下ろすと砂地の裾野はどこまでも続いている。

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富士山ワゴニア2208fujiwagoneer0108.jpg

一方で見上げると富士山の斜面は城の石垣のように次第に勾配を増しそびえている。山頂近くではその勾配故、火山灰は堆積できず、岩盤が剥き出しとなっている。砂が崩れることなく安定を保つぎりぎりの角度を安息角と呼ぶが、富士山の砂地もそれに近いのではなかろうか。わずかな均衡が破れると砂は一気に崩れ落ちることだろう。



それにしても自分含めこの光景を目にした人々が抱く最も大きな疑問は「なぜこのような場所に一般車両が」につきるだろう。実際に大勢の方が検証している。
世界文化遺産登録後、年々ルールが厳しくなる富士山。そんな現在では信じがたい話だが、どうやら個人が自家用車やバイクで富士山頂へ登ることができた時代があったようだ。そもそも四駆とはいえ道無き道の走破が可能なのか、またそのような行為が黙認されてたのも驚きだが、とにかくゆるい時代だった。

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不安定な砂に足を取られながら一歩一歩ワゴニアに近付くとその朽ちた姿が露わになった。車体はへしゃげ、窓やボンネットは消え去りエンジンはむき出し。その様はまさに廃車。意図的に取り外したのかは不明だが四本のタイヤも全て消え去っている。赤茶けた車体は本来の車体色なのか、それとも錆なのか。

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ワゴニアは山頂へフロントを向けたまま停止している。無謀にも最短距離となる直線で一心不乱に突き進んで来たものの次第に増す勾配、砂地にタイヤを取られスタックしたか、あるいは高高度でのエンジントラブルのためか力尽き、ドライバーも回収を諦めたのか。



無謀と書いたものの、実は富士山は頂上までブルドーザーのような重機であがることができる。実際に富士登山をした人は気がつくが登山道裏には主に山小屋への物資運搬を目的としたブル道と呼ばれる「車道」が目立たぬように敷かれキャタピラーの跡が残されている。

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かつて歩荷(ぼっか)とよばれる職人が担ってきた山小屋への荷揚げは日本アルプスではヘリに取って代わられたが、富士山では現在もブルドーザーがメイン、今日も遙か彼方から土埃を上げ斜面をよじ登る重機のうなり声が風にのって届いてくる。しかしワゴニアが棄てられているのはブル道とは遠くはなれた荒野の急斜面。よくここを車で登ろうと思いついたものだ。



霧、青空、再び濃霧。富士山は独立峰だけあって気象は目まぐるしく変化する。 
下界からみるとポカポカと青空に浮かぶ積雲もここでは巨大な白い塊。積雲が風にのってみるみる富士山に近付くと斜面を駆け上り周囲はガスと呼ばれる濃霧に包まれる。

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白い世界に包まれるワゴニア。変形したその姿はまるで骨格のような残骸に見える。目標物の少ないこのような場所でガスにまかれると帰路を見つけることも困難となるため細心の注意が必要だ。
再び霧が流れ去ると頭上から太陽光が射し込み残骸が浮かび上った。

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この廃車を知ってから悩んだのが探索の季節。冬は論外だが探索するのであれば夏か秋、結果夏にして正解だった。秋は天候は安定、間違いなく快晴の一日を楽しめる反面、雲一つ無い秋空は単調な光景になりがち。夏場は悪天というリスクもあるが青空、霧、夏雲。刻々と変わり変化のある気象を楽しむことができた。



雪の重みなのか、落石なのか、大きくへしゃげたワゴニアの屋根。一方で内部は意外に当時の姿を残している。車には詳しくないので説明は省くが窓枠から覗き込むと時代を感じさせるインテリア、またレトロな機器が散乱していた。

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後方に回り後部ハッチが開け放たれたままのトランクから内部を観察。後部車内に堆積した黒い火山灰に種子が舞い降り、灰を苗床として野草が生え始めていた。



それにしてもワゴニアはいつまで残されることだろう。厳格なこの時代、この存在を知れ渡れば、美しい世界遺産富士山を汚す不届き者として直ちに撤去が始まるのか、それともこれも歴史の遺物や新しい観光名所として残されるのか、非常に気になるところだ。

富士山ご来光2209fuji003.jpg
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富士山満月2208fujiwagoneer0505.jpg

19時。富士山五合目駐車場。眼下の街が灯り始めた頃、雲間から輝く巨大な物体が顔を出した。裾野に広がる夜景と不気味な月。ワゴニアも今頃同じ光景を眺めていることだろう。
富士山の短い夏もそろそろ終わり。ワゴニアもやがて雪に埋もれて行く。

[了]
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