●2022年7月某日/夕日と星。毛無峠車中泊、2022年編。
- 2023/04/25 22:22
- Category: マニアックスポット

群馬、長野の県境、標高1,823mの毛無峠。
かつて鉱山を有した荒涼とした光景と地形が広がる毛無峠に魅了され
ここ7年程ほぼ毎年、この場所で夏の車中泊を行ってきた。
以前は人の気配もほとんどなく、特に漆黒の夜には無人地帯となり心細い思いをした毛無峠、
しかし年々知名度が向上、特にここ数年は週末の日中は車を停める場所すら難儀するようになってきた。
今回も車中泊が目的のため混雑する昼間を避け夕方到着予定で峠を目指した。
いつ訪れても霧に覆われることが多い峠で今年は星空を望むことはできるのだろうか。
[毛無峠過去の光景]
[嵐の毛無峠]
photo:Canon eos7d 15-85mm
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。
今年も毛無峠を目指す季節がやってきた。混雑回避のため峠到着は夕方を予定しており山麓で時間つぶし。この日、湿った空気の影響で列島上空にはいくつもの積乱雲が形成された。以前も書いた気がするが昔からこの積乱雲の姿に魅了されており、今日も積乱雲を追い続けふもとの丘陵地帯を走った。案の定、雲の真下では豪雨に見舞われる。道中冠水した道もあったが積乱雲は熱源が消滅する夜間には消滅するのでさほど心配はしていない。


毛無峠の周辺半径10数キロは何もないのでふもとのコンビニで水、食料を買い込み、山道に入る。曲がりくねる県道を車で上り続け17時15分、1年ぶりの毛無峠に到着した。天候も急速に回復、到着直前に雨もあがった。
●
木も生えない草津白根山系の荒涼とした山岳地帯。山同士を繋ぐ稜線鞍部のわずかな平地、これが毛無峠。
ここまで走り続けた県道112号は峠を越え、手前の群馬側へとつづら折りのダート道となって斜面を下っている。しかし実際には峠上で県道は通行止めとなっており、現在は「峠」としての機能は消滅している。


赤茶けた台地が広がる群馬側とは対照的に長野側は一面緑のクマザサに覆われている。ただしどちらも急峻な地形であることは変わりはない。
●
峠周辺は先ほどまで豪雨に見舞われていたのだろう、到着したダートの空き地は深い水たまりができ、車から降りると湿った空気と雨上がりの匂いに包まれた。時刻は夕刻、ほとんどの車は峠を去ったようで駐車場代わりの空き地に停められていた車は数台程度だった。


毛無峠といえば索道跡。先程のダート道を下った先にはかつて小串鉱山があり、その際使用されていた索道支柱が現在も撤去されることなく峠のシンボルとなっている。
濡れた山肌を登り、索道脇の岩に腰掛け頭上の暗雲が流れ去るのを待ち続ける。やがて予定通り雲が切れ西日が周辺に射し込んだ。斜光によって赤茶けた荒しい山肌が強調され、時々通り過ぎる薄い霧が太陽光を透過し金色に輝きながら流れ去る。

小串鉱山には2000人あまりが住む鉱山街があった。このような高所に学校も有する「街」があったのも驚きだが、冬ともなれば下界との通行も閉ざされてしまう厳しい立地。索道は硫黄などの鉱石以外にも物資運搬用としても、長野県側のふもとと群馬県側の鉱山都市が結ばれ貴重な生活のライフラインをもになっていた。
●
鉱山施設のほとんどは解体されたが不思議なことに峠周辺の索道だけは撤去されることもなく強風、雪、厳しい自然に耐えながら閉山から50年あまりを経て建ち続けている。ちなみに峠直下には冬期通行可能な隧道も掘られていたようで、以前跡地を探したことがあったが坑口を見つけることはできなかった。

かつて支柱同士はケーブルで繋がれ無数のバケットが行き来していた。このような索道は決して鉱山だけのものではなく、以前紹介したように人里離れた山岳集落でも物資運搬用として見受けられる。特に道路網が貧弱だった紀伊半島では資材運搬用として索道が活用され、中には集落を繋ぎ山々を越え総延長は20kmに達したものもあった。
●
太陽が峠西側にそびえる破風岳稜線に近付くにつれ上空にたなびく薄雲が夕日を浴びオレンジ色に変化を始めた。見渡す限り黒とオレンジ色の世界。そして規則正しく並ぶ索道のシルエット。







遙か遠方には今日の豪雨をもたらした積乱雲が見えた。
日没後30分あまり、地平線にわずかな赤みを残すだけとなった薄暮の世界。眼下では街の光がまたたきはじめる。残照が残る薄暮の山肌に気流に乗ってたえまなく流れ込む霧によって次第に峠からの視界は閉ざされていった。



日が沈んだ峠には、今夜この場所で夜を過ごすことを決意した人たちの数台の車、あるいは既にテントやタープを張ってキャンプ中の人の姿も見受けられる。毛無峠で車中泊を始めた初期の頃は、夏場でも夜間になると峠周辺に人の気配は皆無、完全な無人地帯となっており、漆黒の闇の中で不安な思いをしたものだ。ところが年々同業者が増加していき、最近は峠に複数のテントを張りキャンプを行う猛者も珍しくはなくなった。
野営のようなキャンプ泊にも憧れるがかつて毛無峠で目撃したテントをいとも簡単に倒壊させ、吹き飛ばす暴風の惨劇がトラウマとなっているため車中泊を選択。といってもシートを倒し、マットを敷き、シュラフを拡げただけだが。
●
夜の毛無峠。索道を背景に頭上に広がる星。
それにしても静かだ。霧もなく、そして無風の夜も珍しい。ここでは繰り返し車中泊を行ってきたが上空のわずかな気象の変化がダイレクトに影響するため、毎回星を見ることができるわけではなく、嵐、強風、落雷、濃霧と様々な気象に翻弄されてきた。




ラスト一枚、星の光跡が中途半端に終わっているのは、あろうことかここでカメラのバッテリーが切れてしまったため。予備もなかったので今回の星撮影はこれであえなく終了となった。
毛無峠の朝焼けはこの時期、朝4時50分過ぎなのでアラームをセット、バッテリーも充電しシュラフにもぐり込んだ。初めてこの峠を車中泊スポットとして選んだのはおそらく静かで涼しいだろうという理由。今回も熱帯夜が続く下界とは別世界の涼しい高所で安眠できた。
●
アラーム音で目を覚ます。結露した窓を拭き、外を伺うとしらみはじめた空がひろがっている。快晴だと朝焼けは見られないが幸い上空に薄雲が広がっているため、雲が赤く染まる様子を見ることができた。

凛とした早朝の冷気の中で立ち続ける索道。いくつか残っている索道遺構の中で最大のものだ。夏にしては珍しく空気も澄んでおり浅間山の噴煙までくっきりと見える。


斜面に沿って続く緑の草原は一見爽やかなに見えるがその実態は密生したクマザサ。この時間、下手にクマザサ地帯へ入り込むと朝露で服がびしょぬれになってしまうので注意が必要だ。


早朝7時、峠の狭い駐車場は朝から続々と訪れる車で既に「満車」状態、停められない車は路肩に駐車状態となっており、無人状態だった以前の毛無峠の朝を振り返ると信じられない光景だ。
●
冷気に包まれる早朝の毛無峠、一方で今日の地上は37度を越える気温が予想されており、下界へ下るのもなんだか気がめいる。とはいえダラダラと長居し狭い空き地を占拠するのも悪いので車中泊セットを片付けポリタンクの水で顔を洗うと混雑する峠を後にし、次の徘徊スポットへと移動するため下山を開始した。


それにしてもここまで峠に人が増えてくると、そろそろ他の夏の車中泊スポット候補地を探す必要がある。実際、昨年は別の高所で車中泊を行った。しかしここまで気象の変化をダイレクトに感じる場所もなかなか見当たらず棄てがたいのだ・・・
[了]
スポンサーサイト