●2023年7月某日/毛無峠、積乱雲の下で過ごした夏の風景。
- 2023/09/11 22:22
- Category: マニアックスポット

長野県、群馬県県境に位置する毛無峠。
毎年この時期、標高1,800mを越えるこの場所で
車中泊を行うのは涼しいといった理由意外にも夏場は霧、悪天など
様々な気象条件下でドラマチックな光景が見られことが多いからだ。
今年も刻一刻と形を変える積乱雲に魅了された日となった。
それにしても雲の写真ばかりとなってしまった・・・。
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。
→毛無峠、過去の風景
毛無峠。それは長野県・群馬県境にある行き止まりの鞍部。峠とは言っても群馬県側は封鎖されており実質通行止めとなっている行き止まりの道。標高1,823m、風が通り抜ける荒涼とした空間は日本離れしたどこか心を揺さぶられる場所だ。

かつては知る人ぞ知るマニアックな場所だった毛無峠も最近は人気スポットへ変貌、混雑がひどく休日の日中は車を停める場所にも苦労するため、到着時間を午後遅めに設定。
曲がりくねる山道を走り続けようやく峠に到着、駐車場代わりの砂利の空き地に車を停める。車から降りると冷気と吹き続ける風が体を包み込んだ。


峠に立つ錆び付いた索道群はかつて群馬側にあった小串鉱山と長野県とを結ぶ物資運搬用として建設されたもの。
小串鉱山閉山後、ほとんどの建物が解体されたが、不思議なことに索道だけは撤去されることもなく風雪に耐え続け峠のシンボルとなっている。その索道の彼方から白い雲が湧き上がり続けた。


小さかった積雲は成長と集合をくり返しやがて積乱雲へと成長していく。
猛暑に包まれた7月某日、下界では気温が38度近くまで達した場所もあった。上空の寒気と地表の熱との寒暖差による大気の乱れが雲のパワーを生み出す。





自分は幼少期から美しさと危険さが相反する積乱雲に魅了されており、索道斜面に転がる石に腰掛けるとその動きや形状に見入ってしまう。遠目に見るだけならば美しい積乱雲。しかし黒い雲の真下、長野県側の山裾は激しい雷雨に見舞われていることだろう。



上昇気流と共にうごめきながら成長を続ける積乱雲。雲上が成層圏へ達すると上昇を止め、横へと薄く広がり「かなとこ雲」と言われる形状へと変化し始めた。やがて遙か遠くから低い雷鳴がとどろきはじめた。
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最強とも言われる「かなとこ雲」。10年ほど前、吹きさらしのこの場所でかなとこ雲の雷雲にすっぽりと閉じ込められ、至近距離での落雷、暴風に揺さぶられる車内で震え上がったことがあった。→LINK
このまま雲に巻き込まれる覚悟をしていたものの、今回は幸いなことに、かなとこ先端部が峠上をかすめたため嵐に見舞われることはなかった。



18時、かなとこ雲の先端が赤く染まり、毛無峠に日が沈む。索道の彼方にわずかな赤みを残し周囲は闇に包まれた。日没と同時に供給源となる熱源を失った積乱雲。崩れ去る雲の残骸は遙か遠方で力なく放電をくり返していた。

気がつくと車やバイクは一台、また一台と峠を去って行きわずか数台の車が残っているだけ。これらの持ち主は今夜峠で一夜を過ごすと決意した人々のようだ。
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夜の毛無峠。濃霧に包まれることも多く、過去視界ゼロだった夜も珍しくはないが、今夜は雲も流れ去ったため満天の星空が約束されるはず。夜も更けた頃、車から降りる。意外なことに見上げた夜空に星は少ない。その原因は煌々と夜空を照らす満月だった。



しかたがないので深夜の峠を徘徊。月明かりに照らし出される夜道に懐中電灯も不要。
「この先危険につき関係者以外立入禁止」と書かれた右側に立つ朽ちた看板には「群馬県」と書かれていた。2015年頃にはまだはっきりと明記されていた「群馬県」の文字も風雪にさらされ次第に風化、最近は読み取ることも困難になった。
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峠で夜を過ごすのはもう何度目だろうか。かつては夜になれば完全な無人地帯となり心細い思いをしたこともあった峠も年を追うごとに宿泊者が増加、今回も数台の車が静かに寝静まっている。熱帯夜、蚊、そして暇をもてあます余す若者の騒ぎに巻き込まれやすい真夏の車中泊やキャンプ。それを解消する唯一の手段は標高差を活すこと。今年も涼しく、静まりかえる峠で予定通りシュラフにくるまり安眠。
峠の夜明けは早い。4時前には東の空は白み始める。


やがて朝日が昇ると同時に車やバイクが毛無し峠に次々に到着し始めた。気がつくと駐車場代わりの砂利の空き地も車やバイクで埋まり始めている。混雑する峠に長居は無用、あわただしく車中泊セットを片付け一晩を過ごした峠を後にした。
[了]
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