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●2023年8月某日/変わらぬ秘湯。東北山中湯治場の夜。

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東北地方某県の深い山中。
湯気に包まれた古びた木造小屋が人里離れた森の中にひっそりと点在している。
数年ぶりの温泉は健在だった。
この雰囲気と湯の質に魅了され過去何度も宿泊してきた湯治宿。
浸食が進み崩れ落ちそうな木造小屋で、今年も湯治中の老人と共に一夜を過ごす。


※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。

前回の訪問記] 

緑に包まれる森の小道を歩くと硫黄臭と白い湯気が立ちこめる空間に出た。
その奥には数棟の古びた木造小屋が見える。標高1,130m、東北の深い山中にひっそりと佇む質素な温泉。小さな木製湯船では湧き出したばかりの熱い湯に浸かることができる。
温泉棟のさらに奥には宿泊施設も併設されている。これが宿泊施設だ。

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古びたバラックのような小屋。その内部は仕切りもなく、ござが無造作に敷かれただけの空間となっている。温泉宿泊施設と聞き、旅館のような建物を想像しているとその落差に驚かされるに違いない。
そう、ここは大量の客をさばく観光用ではなく、湯治客のための温泉宿なのだ。当然宿泊は見知らぬ者同士の雑魚寝となる。

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宿泊用小屋は、床下の噴気帯から発する地熱を受け止めるオンドルと呼ばれる施設となる。足元の土間周辺は蒸気が結晶化した湯花が浸食し、まるで腐食したかのような状態となっている。



個室もなく、ござが敷かれた適当なスペースを陣取り他人同士が雑魚寝する。パンフレットなどで「ひなびた秘湯」というキャッチコピーを目にするが、ここほどその言葉が似合う温泉もなかなかないだろう。
宿泊料金の格安さと温泉の質、そしてなんといってもこの古びた雰囲気が気に入り以前から宿泊を繰り返してきた。

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もちろん食事など提供される訳もなく、個々の自炊が前提となる。そのため長期滞在者に対応すべく古びた自炊棟や、冷たい湧き水が流れ込み続ける冷蔵庫代わりの水桶が常備されている。



そして2023年夏、いつものように下界のスーパーで買っておいた食材、飲み物を冷え切った水桶に付け、湧き出す熱源に食材を放り込み蒸し料理を作る。誰もいない温泉で時間を潰し、湯船から上がった頃には野菜を中心とした食材は見事に茹であがった。

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上空の夏雲が夕日に照らし出されたのもつかの間、温泉有する山々は闇に包まれた。
梁から垂れ下がる古びた紐を引き、裸電球を点す。光量の弱い電球周囲だけがひっそりと浮かぶ上がる。通路の両側が寝床、客は空きスペースに思い思いに寝転び夜を過ごす。机や電灯、椅子まで持ち込み部屋のようなスペースを作る気合いの入った長期滞在湯治客も見かけたこともある。

秋田県大深温泉宿泊棟2308oonsen0209.jpg
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本日の宿泊者は自分以外にわずか2名、プライベート感ゼロの空間で湯治客と会話をしたり、寝転んだり。
雑魚寝のため夜は静かに過ごす必要がある。消灯も早く、他の湯治客が寝る支度を始めたのでこちらもごろりと横になる。



オンドル小屋に寝転ぶと熱源が薄い床板を通し背中にじんわりと伝わってくる。布団もない、毛布もない、ごろ寝状態の体に開けっぱなしの窓から流れ込む冷たい夜風が心地よい。入口扉も日中、夜間共々全開となっており、深夜、室内に獣でも入ってこないかと不安になるほどの開放感。

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秋田県大深温泉宿泊小屋2308oonsen0207.jpg

素泊まり1,500円(当時)という宿泊代の安さに惹かれ初めてここを訪れたのは遙か昔のこと。
食材持ち込みルールすら知らずに場当たり的に訪れた自分達に対し、他の湯治客の方々から様々な食材を分けていただくという心温まる経験をして以来、何度も宿泊してきた。
これでも施設は改修などわずかながら進化を遂げ、宿泊費もじわじわと上がってはいるが本来の良さはまったく損なわれていない。



マニアックなスポットが連鎖的に広められ、その良さが失われていくSNS全盛時代、幸いなことに人知れぬこの温泉にはまだその波は届いていないようで時が止まったかのような空間の中でいつものように過ごすことができた。

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深夜、わずかの湯治客は寝静まり、誰も現れない温泉棟。熱湯に冷水を流し込み温度を調整しながら木製湯船に浸かり時間を過ごす。夏とは言え冷え込む夜風が湯上がりの体に心地よい。夜空を見上げると満天の星と天の川が頭上に広がっていた。

[了]

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