●2010年2月某日/難攻不落の廃墟、笹間渡発電所

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南アルプスから駿河湾へ注ぐ静岡県、大井川。
深い山間部を蛇行して流れるその川沿いに笹間渡水力発電所と呼ばれる廃墟がある。
断崖の上を走る旧道から対岸によく見えるこの廃墟は
その立地のわかりやすさとは裏腹に接近には非常な困難を伴う。
寒波の影響で冷え込んだ2010年の2月、笹間渡水力発電所へ四度目の挑戦を行うこととなった。


photo:OLYMPUS E-410

この廃墟は大井川が幾度にわたり蛇行する「鵜山の七曲り」と呼ばれる場所に存在している。そのため川辺はまるで「島」のように分断、お互いに近付くこともできないのだ。
まさに孤島。
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そんな道なき「孤島」の一角に建つ廃墟だが、建物周辺には整地された茶畑が広がっている。対岸の高台から双眼鏡で偵察すると茶畑の畝は刈りとられ明らかに最近人の手が入ったかのようにみえる。ということは現在においても人が通れる道は必ずあるはず。

と、ここまで引っ張りながら実は、6年前、一度だけこの廃墟へたどり着いたことがある。

●2004年、初挑戦。笹間渡駅のある南側より腰まで大井川につかり日没寸前に到達した。

●2008年、航空写真を元に山側(東側)から攻めて見るも断崖に阻まれ到達できず。

●2009年、再挑戦、村人にアクセスを聞いてまわるが判明せず。到達できず。

今回は写真撮りではなくアクセス経路の解明が目的。軽量化のため、フィルム一眼レフカメラは持参せず。友人と出発したのは今年最大級の寒波が襲来した朝。登山用の完全フル装備で出発した。



北側より発電所跡を目指すべく廃墟を望む高台へ到着。この廃墟、まるで手の届きそうな距離にあるものの両者の間は断崖と大井川本流で分断されている。アクセス路がないものかと地形図を左手に、双眼鏡で廃墟周囲をくまなく調べていくものの道やそれを示す痕跡は相変わらず見当たらず。

いつまでも考えていても進展しないため、まずは遙か眼下を流れる大井川へと降りてみることにする。と言っても先述したように旧道から川へは断崖が続き一体どのように降りたら良いものか。あたりを徘徊していると、遠くで探索していた友人から道らしきものがあると声がかかった。確かに薮の中に踏み跡らしき痕跡があった。廃道状態とはいえなんとか降りられそうだ。

薮の中の急斜面を下り木々の合間から川の流れが見えはじめた頃、道は崩落と共に消滅した。こうなったら岩場を降りるしかない。足場を探しようやく河原へ到達することができた。

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大井川の河原から振り返ると今降りてきた急斜面がそびえる。帰路はあれを登らねばならないのか・・・。
気を取り直し前方を見ると廃墟があるはずの「島」が意外な近さで目に飛び込んできた。しかし自分たちが立つ河原と対岸は大井川の流れによって分断されている。

川幅が最も狭まるルートを探し広大な河原を歩き続ける。気温は朝方、零度を下回ったのだろう、川の水が滞留する部分には厚い氷が日中になっても溶けずに残っている。とはいえ他に道は見当たらず。やはり今回も渡るしかないか。



登山靴からビーチサンダルへと履き替え試しに足の先を水につけみると凍えるような冷たさ。冷たさというよりむしろ痛みを覚える水温。あまりの痛さに10秒と足をつけていられない。とは言ってもこんな場所でいつまでも考えていても仕方がない。気合いを入れ直し冷水に足を踏み入れた。

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冬の弱い日差しでようやく足が乾いた。
乾期ということで水位は普段よりも下がっているとはいえ、それでも膝まで冷水につかるはめになった。
あんな冷たい川はもう二度と渡りたくはない。六年前の秋、腰まで水につかり大井川を渡った時の方がよほどまし。廃墟に着きさえすればきっと帰り道が見つかるはず、乾いた道で帰れると気を取り直し、靴をはき直すと目的地へと向かう。

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ここまでくればあとはもう迷うこともなく進むだけ。
藪をかき分け竹林をぬけ石垣をよじ登るとついに目の前に発電所廃墟が現れた。


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六年ぶりの再会。

静まりかえった茶畑に立ちつくす笹間渡発電所の廃墟。

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発電所内部の大空間。無骨な外観から受ける印象とは対称的に、ガラスが外れた窓枠から射し込む冬の日差しが雰囲気を暖かみのあるものにしている。白く塗装された壁面が自然光を反射するためまるでスタジオのような明るさと開放感に溢れていた。



中央には2つの巨大な穴が口を開けている。
散乱する木材によって境界線が不明瞭なためうっかり近付けば踏み抜き落下してしまう。縁からおそるおそるのぞき込むと吸い込まれそうな暗さ。
かつてこの穴には2機のタービンが設置されていた。上流から導水管によって運ばれた水を落下させ発電が行われていた。建物背後の山の斜面には水圧鉄管が設置されていた土台が木々に埋もれ残されている。


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しかし2010年現在、この空間には発電所稼働時の痕跡を残す機材は何一つ残されてはいない。
その変わり室内に散乱するものは錆び付いた自転車や放置された農機具。笹間渡発電所は閉鎖後、周囲で茶業を営む農家の人々の倉庫代わりに使用されてきたのだろう。



到達は達成したが本来の目的はアクセスの解明。昼飯もそこそこに手分けして肝心の帰り道を探すことにした。
ところが発電所跡から伸びる道、これが一向に見当たらない。そんなはずはない。周囲はまるで昨日刈り取ったかのような茶畑。車はともかく少なくとも人間がやってくる人道はあるはず。

ようやく島の南端で草に覆われた道らしき痕跡を発見した。南へと続く廃道はおそらく以前の探索時に見つけた笹間川に架けられた吊り橋跡に続く道に違いない。意気揚々とたどって行くもののわずか5分ほどで大井川への崩落とともに道は消滅、再びこの廃墟へと戻ってくるはめになった。

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通行不能となった廃道は発電所建設時の資材運搬や稼働時に使用されていたものだろう。
問題は現在。道の崩落によってこの平地は文字通り陸の孤島状態となっている。しかし先述したよう周囲には刈り込まれたばかりの茶畑。対岸の断崖上から廃墟へと伸びている運搬ケーブルがあるものの、農家の方はまさかこれに乗って行き来しているのだろうか。
いやそんなことより、と言うことは帰路再びあの凍るように冷たい大井川を素足で渡ることになるのか・・・。


そんなわけで到達は成功したものの本来の目的であったアクセス解明には今回も至らず。なんというか消化不良の達成感。川の水位が増せば決してたどり着くことはできない笹間渡水力発電所。乾季のうちにまた挑戦したいのだが・・・。



凍えるような大井川を再び渡河しなんとか車まで辿り着き、笹間渡発電所近くにある地名発電所跡へも立ち寄ってみる。

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こちらは先ほどの笹間渡発電所と違い非常にわかりやすく近づきやすい立地。
車も横付けすることが出来る。久しぶりに訪れたものの雰囲気の良さは相変わらず。しかしこの翌年惜しくも解体されてしまうこととなった。

[了]
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