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●2014年6月某日/幽玄の空間、無間山観音堂跡

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しとしとと降り続く雨。梅雨の時期は外出も控えたくなるような日が続く。
しかしそんな雨の日を選びあえて出かけた場所がある。
それは静岡県中部、粟ヶ岳の山頂付近にある朽ち果てた廃神社だ。
過去山歩きなどで何度か神社の横を歩いたことがあったものの
友人達を置いて一人、廃墟を撮るわけにもいかず、
あるいは好天が作り出すコントラストの強い風景にどうも触手も伸びずスルーし続けはや10数年。
今回は降り続く雨に服もカメラも濡れながらもなんとか幻想的な光景に出会うことができた。


photo:Canon eos7d 15-85mm

この神社、今回初めて訪れるというわけでもなくかつて山歩きの最中、訪れたことがあったがいずれも晴れ男運が幸いし当日は好天、晴れた日に森や神社を撮ってもうまくいくはずもなく、雨天を待ち続けていた。しかし今年は梅雨に入っても好天が続きの思うような天候が訪れない。おかげでこの時期にしては珍しく出かけることができたものの次第に焦りが募り始めた。

雨といってもただ降ればいいという訳でもなく降り続いた雨が上がった瞬間がベスト。濡れる心配も無く、立ちこめる水蒸気が幻想的な光景を作り出すに違いない。とはいえ、現地までの移動時間を考えると頭上の天気を見て出発しても間に合わない。
タイミングを掴むべく天気図を眺めているうちにこれだ、と思う日がついに現れた。雨を降らせていた梅雨前線は北からの高気圧に押され明日の朝、一旦日本列島の南へと下がりそうだ。とすれば午前中には雨も上がるに違いないと急遽、静岡県へと向かった。



廃神社がある山は粟ヶ岳という。この山、静岡県を東西に縦断する国道1号線を通過した人ならば金谷掛川間で一度は見かけたことがあるのではないだろうか。お茶の産地をアピールすべく斜面に木々でつくられた巨大な「茶」の文字が書かれた山だ。

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目指す粟ヶ岳は雨雲に覆われ山頂はもちろん中腹すら望むことはできない。想定通り。時折雲が切れるとまるで水墨画のような幻想的なモノトーンの光景が広がる。廃神社があるのはさらに上の山頂付近。完全雲の中だ。到着する頃には雨も上がり良い霧が立ちこめていることだろう。

斜面に沿って作られた波打つ茶畑の中を延々と登りいつの間にかかなりの高さとなった。

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視界が効いたのもこのあたりまで、周囲は濃い霧となった。
すれ違いも不可能なつづら折りの急登、とはいえこんな雨の日に登山や観光をしようという物好きなどいるはずもなく対向車がまったく現れないのが救い。このまま進むと標高532mの粟ヶ岳山頂駐車場へ到着することになる。しかし今回は登頂が目的ではないので途中にあったわずかなスペースに無理矢理車をねじ込み停止させた。標高450mほどの地点。

エンジン音が収まると車体に叩き付ける雨音が響き渡る。ワイパーに合わせ一瞬広がるフロントガラスの視界もまたたくまに雨粒に覆われる。どうみても土砂降りに近い状態だ。現地到着時には霧雨、うまくいけば止むだろうと安易に考えていたのだがそれどころではなくなってきた。しばし車の中で待機し小降りになったと判断、出発を決意。雨具は傘のみ。森に入れば多少の雨はしのげるだろう。



森の中で雨はしのげるというのは甘い考えだったとすぐに気がついた。びっしりと頭上を覆う原生林の葉は雨を防ぐことなく傘を差してはいるもののずぶ濡れの状態だ。それどころか葉にたまった巨大な水滴がボタンボタンと爆弾のように落ちてくるのだからたまったものではない。



しばらく進んだあたりで三脚を忘れたことに気がつく。手元を見れば握っている棒状のものは三脚ではなく傘の柄だった。ここまでやってきながら正直車まで戻りたくはない。しかしこの薄暗さ、やはり三脚は不可欠だろう。


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しばらくは山の斜面に沿って広めの道が続く。うっすらと残る車の轍も次第に消えやがて道は草に覆われた廃道状態へと変化していく。ここは初めて歩く道。山歩きとは思えぬなめた格好でやってきたため地面を覆う濡れた草をかき分け進むうちに靴までずぶぬれだ。やがて見覚えのある登山道と合流、木々に覆われた薄暗い小道を進むと前方の視界が開けた。



現れたのは朽ち果て草に覆われ始めた鳥居がたたずむぽっかりと空いた広い空間。
ここが今回の目的地だ。

粟ヶ岳の廃寺無間山観音堂1406TempleRuinsb03.jpg

霧に覆われた境内は片方からの強い太陽光が存在しないため、拡散光の照明が作りだしたかのような幻想的な光景。何度も来たことがある場所だが天候でここまで印象が変わるとは。予想取り。

やはり森や神社は小雨や霧がよく似合う。とはいえ単純に喜んでばかりもいられない。降り注ぐ雨粒がレンズへ付着、多数の水滴が写真に映り込んでしまう。レンズをふきながら撮っていくもののほとんどが使いもにもならない写真だ。当然、体はもちろんカメラもずぶ濡れ状態。果たして大丈夫なのだろうか。

粟ヶ岳の廃神社の鳥居1406TempleRuins09.jpg


霧が少し薄まると乳白色の世界に建物らしきいくつかの構造物が浮かび上がってきた。奥に見えるのが例の廃神社の本殿だろう。同じ場所にもかかわらず晴れた日の印象が大きく変わりどうも感覚が鈍っている。濡れた草をかき分けながら本殿に近付いていくと今までとんでもない思い違いをしていたことに気がついた。

粟ヶ岳の無間山観音堂外観廃墟1406TempleRuinsb02.jpg


山腹に広がる空間にはいつくかの朽ちた廃屋が点在している。その中心にある最も大きな建物は、鳥居が隣接していたため長い間何の疑問も抱かず神社なのだと思い続けていた。
ところが今回、この建物が寺院だったことを初めて知った。今まで気がつかなかった草むらの板に管理する寺の名前が書かれていたのだった。

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見るからに歴史を感じさせる古びたお堂。正式名称は「無間山観音堂」とのこと。
もちろん探索時は名称も知らず帰宅後調べたものだ。さらにネット上で在りし日の寺と鳥居が並ぶおもしろい古写真も見つけることができた。



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木々に挟まれるように立つお堂へと近づいてみる。
屋根は崩れ落ち重みで壁面はゆがみ今にも倒壊してしまいそうな無間山観音堂。

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一向に止む気配の無い雨の中、観音堂跡に一礼すると、勘違いの元になった先ほどの鳥居へと戻ってきた。
観音堂跡があるのは左側の森の中だ。落ち着いて考えてみれば鳥居は寺院の方角ではなく山へと向かい立っている。しかし奥に神社などあっただろうか。

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植物が絡みつき、今にも倒壊してしまいそうな木造の廃鳥居。裏には苔むし古びた傾斜のきつい石段が奥へと続いている。長い年月を経て丸く風化した石段は雨で濡れよく滑りそうだ。歩幅も非常に狭い段を慎重に登っていく。

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人が歩くこともないのか、石段は草に覆われ次第に通行も困難になっていく。石段はまだまだ続くがこのあたりで止めておこう。
しかし先ほどの廃墟が神社ではなく寺だとすると、鳥居と石段はさらに上部の粟ヶ岳山頂に存在する阿波々(あわわ)神社のものではなかろうか。とはいえ阿波々神社は現在も参拝客が絶えない現役の神社だ。参道はなぜここまで寂れてしまったのか。



日本における登山史を振り返ると戦前は外国人や華族、学生などごく一部のもの。登山が娯楽として大衆化するのは戦後になってからだ。明治以前の登山はもっぱら信仰が目的であった。その際に使用されていた参拝路が先程歩いた朽ちた道や自分が立つ石段ではないだろうか。時代は巡り車道が完成したことで歩く参拝者が激減、寺も石段も次第に寂れて朽ちていったと思われる。



さらに昔へと遡ると、静まりかえる現在の姿からはとても想像つかないが粟ヶ岳、かつて非常に隆盛を極めた時期があったと聞いたことがある。半ば伝説の類ではあるものの山頂近くの寺にある釣り鐘が幸運を呼ぶと噂を呼び、参拝者が競うように下界から訪れたというのだ。膨大な参拝者による混乱によって多数の死者を出したとされる「無間の鐘」と呼ばれるこの騒動、結局鐘を井戸に廃棄することで収束したとのこと。その古井戸とやらも山頂付近に残っているものの、どうみても釣り鐘も入りそうもない小ぶりなサイズに昔がっかりした記憶がある。まあよくある昔話と思っておいたほうがよいだろう。

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今や無きその伝説の寺院が、まさか廃墟となった観音堂ではなかろうが、昔話をなんだか信じたくなってしまうほどの幻想的な光景だった。

廃寺からさらに登った先には磐座と呼ばれる巨石が転がるマニアックな場所もある。霧の中、巨石撮ったらさぞかしおもしろい写真が撮れるのだろうな、と考えてはみたもののこれ以上雨に濡れる気もおこらず、そもそもカメラが故障してしまっては元も子もなく車まで戻ることにした。先ほどの廃道を草をかき分け雨に濡れながらとぼとぼと歩き車に戻ると、待っていたかのように雨がぱたりとあがった。



つづら折りの車道を進み山から下りてきた。
広大な茶園が広がる粟ヶ岳の周囲。どうやら茶摘みも一段落したのか人の気配もない。雨に濡れたカメラが心配で試しにシャッターを押してみるとこの有り様。ソフトフォーカスフィルターを装着したわけでもなく先ほどの雨と湿気でこんなことになってしまった。

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レンズを外し、濡れたカメラをしばらく乾かしているうちに雲がみるみる切れ始め、厚い雲に覆われていた「茶」の文字が次第に姿を現していく。廃寺があったのはちょうど「茶」の文字の左上あたりの森の中。



30分後、ふもとに下りると天候は一気に回復し空は晴れ渡った。

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空から光が差すとモノトーンだった世界が一気に鮮やかに生き返る。茶畑や田んぼの緑が目にまぶしい。
遠く離れたバイパスから粟ヶ岳を振り返ると朝方、雨雲に包まれ望むことができなかった山頂が青空の下くっきりと姿を見せていた。先ほどまで霧に覆い隠されていた廃寺には初夏の木漏れ日が降り注いでいるに違いない。
わずか数時間の勝負だった。

[了]
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