●2015年3月某日/林道果ての分校跡
- 2015/04/04 22:37
- Category: 廃校

南アルプス山系と身延山系に挟まれた山間部。
その中心からさらに奥へと分け入った山中の集落に残るという分校跡を訪れた。
険しい山肌を縫うように走る古びた林道をひたすら走り続けついに目的の集落が姿を現した。
わずか5棟ほどの集落のどこかに廃分校があるはず。
photo:Canon eos7d 15-85mm
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。
冷え込んだ春の日、南アルプスから流れ出す渓流に沿って山中を走り続ける。やがて現れた分岐点で支流方面へと進路を変え、断崖沿いに進んで行くと雨畑ダムの巨大な堰堤が灰色の姿を見せた。堆砂によって浅瀬が続く静かなダム湖の水際に作られた細い道を上流へ。

ダム湖畔の集落を抜けると、道は古びた林道へと変わった。この林道が峠を越え隣県と繋がる井川雨畑線、通称雨畑林道。地図上では繋がっているとはいえその実態は通行不能状態。
路肩に現れた看板には「がけ崩れ」「路肩決壊」「路面陥没」とありとあらゆる注意喚起が張り出されている。さらにその脇には通行止めと書かれた文字が。唖然として車を停めよく読めばゲートまでは通行可能のようだ。しばらく横の空き地に停車し様子を眺めていると林道へ入っていく地元車が現れた。ゲートとやらがどこに現れるかはわからないがしばらくの間は進むことができそうなので後に続いて林道へと入った。



林道は次第に高度を上げていく。先ほどまで真横を平行していた川はいつの間にか落差数百mを隔てた眼下へと離れていた。深い谷間を挟んで奥へ奥へと続く林道、山を包む雲の中へと消えてしまいそうな天空の道。路面には至る所細かい落石が散らばり架橋は老朽化しているものばかり。予め調べておいてなかればこの先に集落があるとはとても思えないような道のり。
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曲がりくねった断崖上の林道をひたすら走り続けていると前触れもなく民家が現れた。これが事前に調べておいた某集落と思われる。心配していたゲートが現れることなくとりあえずは集落まで到達することができた。
見たところ戸数は5棟ほど。急傾斜の山肌にへばりつく典型的な山岳集落、住民もおそらく高齢者ばかりだろう。わずかな平地には防火水槽が設置され、民家や耕作地は斜面に作られている。悪路とはいえ一応は車の往来可能な林道ができる以前はどのようにして下界との繋がりを保っていたのだろうか。
集落が現れたということは廃校も周囲にあるに違いないと車を最徐行させ森の中や民家の間を見渡しながら進んでいく。途中崖下の森へ続く怪しい小道が現れたもののそれらしき建物は見ることができずぎ、何も見つからないまま集落を通過してしまった。そんなはずはない。しばらく進んだ先のわずかな路肩に車を停め、徒歩で集落へと戻る。すると道路直下の畑で作業している地元の方と出会うことが出来た。
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その方が指差す方向をよく眺めるが見えるのは斜面と木々だけ。道路脇の台によじ上りようやく見つけた!
枯れ果てた森のにわずかに見えるカムフラージュされたかのような屋根。車からは見えないわけだ。場所は先ほど通過した林道から斜面を下ったあたり。

先程見かけた小道はやはり廃校入口だったようだ。車で戻れば早いが小道前は釣り人らしき数台の車が停車されていた。
車の往来はほぼないとは言え林道上に車を停めておくわけにもいかないので、徒歩で廃校へ向かうことにした。
先ほどの方の話では集落下から廃校に直接繋がる道があるためそこから向かいなさいとのこと。ついでに内部はかなり荒れているから床の踏み抜きに注意、ともアドバイスを受ける。斜面を降り行く手を阻む草をかき分け進んで行く。


校庭らしき空き地が森の中に現れた。山岳地帯では貴重であろう平地を贅沢に使い予想以上に広い。
その奥に建つのは廃校となった分校校舎。
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校舎は壁面が崩れ落ちたことによって内部が剥き出しという無残な状態となっていた。そのため二つの教室跡が外からもよく見える。建物内部も見ても良いとの許可もいただいてきたので少し見学。





校舎自体は2つの教室とそれに面した廊下で構成されているだけのシンプルな構造。学校だったことを偲ばせるものはかろうじて壁と屋根が残る廊下側に棄てられているわずかな教科書、黒板ぐらい。裏手に回ると裏口から廊下に転がる教材が見えた。
崩れいく廃校。外と中を遮るものはわずか数本の柱だけとなりもはや建物とは言えない状態。風雨がそのまま吹き込むため倒壊するのも時間の問題だろう。

草木が枯れ果て彩度のないこの季節、寒々しい雰囲気の廃校だが訪問が新緑の季節ならば印象も大きく変わっただろう。あと一ヶ月もすれば木々も芽吹き校庭に木漏れ日が降り注ぐさわやかな雰囲気となるに違いない。
何か見落としたものはないだろうかと周囲を見渡してみると教員住宅らしき二棟の廃屋がたたずむ背後の森の中になにやた人影のような不気味なものが見えた。
近付いてみるとその正体は苔むした数体の像だった。
おそらく当時学校に通っていた子ども達が制作したものだろう。全体のバランスも悪くなく子どもが作ったにしては妙にリアルだ。遠目に一瞬本当の人影かと思ってしまったのもうなずける。厚い苔にびっしりと覆われたその様子は以前海外の遺跡で見た風化した石像のようにも見える。




この「苔の人」、どうやら本来は塗装されていたよう。しかし陽も射し込まない森の中で40年を越える年月を経て次第に苔に覆われていったのだろう。今となってはこのような惨状ではあるが、かつて子ども達が一生懸命作った石像を不気味だというのは撤回させてもらう。
石像の裏には枯れ葉に覆われた道らしき空間がある。うっすらと残る踏み跡を登っていくと先ほど見た釣り人の車が停車されている林道に突き当たった。やはりこちらが正規の入口だった。子ども達は毎朝彫刻の脇を通り通学していたと思われる。
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林道に復帰、今度はアスファルト上を歩き集落へ戻ってきた。ふと正面を見ると道路の真ん中に一匹の犬いることに気がついた。茶色の犬は吠えることなくこちらをじっと見つめている。野犬ではなさようだが犬というものは自分がもっとも苦手とする動物。気を引く餌になるようなものも持ち合わせていないし先ほどの老人の姿も既に見えない。

困った。この道を通らねば奥に停めた車には戻れない。というわけで再び斜面の山道を下り犬を大きく迂回、車へと復帰するはめとなった。
地図を見れば林道奥に他の集落があるとのことでさらに奥へと探索を続ける。しかししばらく進んだところで崩落通行止めと書かれた看板によって林道は封鎖されていた。崩れ落ちそうな断崖に張り付く古びた林道をひたすら走り続けたアクセス路が印象に残る廃校だった。
[了]
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