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●2015年5月某日/GWは西へ。中国地方徘徊記.03

1505gwtop.jpg2015GW三日目。
今年のGWは本州西の果て山口県徘徊に決定した。
渋滞を回避すべく深夜の中国道を走り続け辿り着いた久しぶりの山口県。
海や池といった美しい場所はもちろんマニアックな炭鉱巡りなど
山口の魅力を堪能するうちに連休も中盤、進路を変え再び広島県へと戻ってきた。
三日目の夜明けと同時にまずは10年ぶりの呉を目指す。目的地は潜水艦だ。


photo:Canon eos7d 15-85mm

前回の記事1505hiroshimamap.jpg


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海軍の街、広島県呉市。

驚くべき事に町のどまんなかに巨大な潜水艦が転がっている。
かつて実際に使用されていた潜水艦「あきしお」が陸揚げされ現在「てつのくじら館」と呼ばれる海上自衛隊呉資料館となっているのだ。乾ドッグに収まる巨大タンカー、干上がったダム湖底等、普段水に沈んでいる部分が姿を現すとぞくぞくするような不思議な違和感を感じてしまう。

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実際に運用されていた潜水艦の内部を見学できる「てつのくじら館」は子どもの頃から最も好きな乗り物が潜水艦だった自分にとって訪れたかった場所のひとつ。

ドラえもんのひみつ道具「ミサイルつき原子力潜水艦」が雷撃戦を展開する「ラジコン大海戦」から始まり、
ネモ船長が潜水艦ノーチラス号で主宗国、大英帝国に復讐を誓う古典小説「海底二万里」(原作)
密かに建造された原潜を乗っ取った海自隊員が米ソ大国を翻弄する長編コミック「沈黙の艦隊」
亡命を企むタイフーン級艦長との心理戦を描いた「レッドオクトーバーを追え」(原作)
水圧の恐怖を描いた「Uボート」(原作)、ドイツ日本を結んだ潜水艦作戦「深海の使者」、
沈没した潜水艦の引き上げを描いた「総員起シ」等を始めその他諸々さまざまな潜水艦小説に手を出してきた。広大な海に潜み攻撃を行うその強さの反面、一発の被弾も命取りとなる脆弱さ、逃げ場のないその閉塞感等ドラマチックな心理描写に惹かれるのだろうか。


この潜水艦を訪れたかった理由はもうひとつ。それはかつて埠頭に係留されている「あきしお」を実際に見たことがあったからだ。【下の写真】

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10年ほど前、呉で自衛艦を見学した際、目を引いたのが最新鋭護衛艦群の裏手にひっそりと浮かぶ一隻の潜水艦の姿だった。錆びた塗装、へこんだ船体、かろうじて浮かんでいるようにも見える老朽艦。これが「あきしお」だった。人気の護衛艦とは対称的に朽ちた「あきしお」には誰も関心を寄せず、桟橋には見学客はもちろん自衛隊員の姿すら見当たらず灰色の海に浮かぶ寂しげな姿が印象的だった。その後この古びた艦がリペアされ人を呼び込むことになるとは思ってもいなかった。



AM8:30、隣接する大和ミュージアムでは開館30分前だというのに陸奥主砲、プロペラを過ぎ裏手の公園まで続く長蛇の列ができている。こちらのてつのくじら館でも次第に列が伸び始めたのであわてて列ぶ。先ほども混雑を見越して朝8時に訪れたというのに空き駐車場を見つけるのも一苦労だった。さすがGW。



伸び始めた列に予定を5分ほど早めての開館となった。混み合う前に艦内に入りたい一心で展示物を飛ばし真っ先に4Fにあるあきしお入口へやってきた。目に前には漆黒の曲面。あきしおに10年ぶりの対面。かつての朽ちた状態が一変、鏡面のように塗装し直された船体は見違えるようだ。側面に大きく開けられた見学用入口から船体内部へ足を踏み入れる。もちろん本物にはこのような便利な出入り口はなく上部にあるハッチと呼ばれるマンホールのような穴から身体を滑り込ませることになる。

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ことあるごとに狭いと聞く潜水艦艦内、確かに狭いものの予想していたほどの圧迫感は感じない。やがてそれは展示用に取り外された壁面、あるいはバリアフリー化のため拡げられた防水隔壁のためだと気がついた。実際に運用中の狭さ、周囲を水に覆われているという心理的圧迫感はこんなものではなかろう。

潜水艦内だと実感させるのは湾曲した壁面、そして素人目にはさっぱり用途不明の壁を隙間なく這う無数の配管類だ。映画や小説なんかで被弾、あるいは至近弾のシーンを描く際、必ず水を吹き出すあれだと言えばおわかりにいただけるだろう。実際はどうだか知らないが、吹き出す水と格闘しながら必死にバブルをしめる乗員の姿が緊迫感のあるシーンを作り出す。

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資料館で公開されていた情報を集め描いてみた潜水艦断面略図。軍事素人なので適当です。
丸い船体の内部に三層の居住区、現在見学中の三階の足元には魚雷発射室、さらにその下には電池室があるようなのだが潜行時間にも影響するためかあまり公にされたくないようでぼかされた展示だったためよくわからず絵は空白。



2007年に資料館がオープンした当時、インパクトある陸揚展示以上に驚かされたのは旧型とはいえ軍事用潜水艦の艦内に入ることができるということだった。様々な艦艇の中で最も機密性が高いと言われる潜水艦、その中でもベールに包まれていた場所のひとつが艦の頭脳、発令所だ。映画なんかで艦長を中心にドラマが起こるシーンもこの場所。
いよいよ発令所へ足を踏み入れる。壁一面の計器に埋もれた薄暗い部屋。これでも艦内で最も大きい空間のひとつだという。中心にある潜望鏡は船体を縦に貫通し頭上にそびえる艦橋へ繋がっている。艦橋へ上り艦長気分にひたってみたいものだが当然登ることはできない。いつか艦橋が公開される日が来て欲しい。

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発令所の最も前方にはハンドルと座席が据え付けられた操舵席。
海底探査や観光用と違い軍事用潜水艦には窓はないため操舵員は目の前の計器だけを見つめながらハンドルを握りつづけることになる。どのような乗り物にも運転席に必ず存在する「窓」がないため不思議な感じだ。「目」を閉ざされた状態で壁だけを見つめ操舵するのは精神的にも疲れそうだ。
あきしおの進水は1985年と30年も前のこと。そのためか発令所の周囲を埋める様々な計器、メーター類はアナログな雰囲気を醸し出している。最新の潜水艦はデジタル化が進んでいるのだろうか。 


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結局順路となってたのはイラストで言う最上階3階の前方部分のみ、魚雷発射管室や機関室などは見学できないし、ソナー画面などの詳細は隠されている。それでも機密の塊と呼ばれる潜水艦艦内をこんなにさらけ出して良いのだろうかと心配になってしまうほどの開放っぷり、呉までやってきた甲斐があった。


かつて東北の深い山中でトンネル工事に従事する人々が寝泊まりする飯場に泊めてもらったことがあった。携帯の電波も入らない人里離れた場所に立てられた狭苦しいプレハブで雑魚寝しながら世間と離れた共同生活の難しさを実感したが潜水艦はそれ以上だった。艦長ですら生活スペースは独房のような狭小部屋。士官クラスも頭がつかえる3段ベッドという実態を改めて知りこのような場所で数十日、世間との連絡を完全に絶たれ任務を遂行する潜水艦海乗りには頭が下がる思いだ。

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複雑に入り組む艦内が混乱することを懸念してか艦内には「混雑時撮影禁止」と書かれた札が掛けられていた。開館直後、展示物をスルーし真っ先に駆け込んだということで見学客もほとんどおらず艦内をじっくりと満喫、撮影もでできた。しかし船体から出る頃にはあきしお入口はごった返し入艦を待つ列ができている。聞こえてくる撮影禁止ですという係員の声。一昨日の角島といい、混み合う場所はとにかく早朝の行動に限ると改めて実感。

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瀬戸内に浮かぶ無数の島。広島周辺の島の多くは橋伝いに渡ることができる。

今回訪れたのはそんな島の中で最も大きい江田島。
呉を離れると2年ほど前に完成したばかりの第二音戸大橋を渡り訪れた。江田島を訪れるということは訪問先は海軍兵学校、いやさらにマニアックに戦跡巡り、思いきや実は今回の目的は船の墓場。島の西側、赤曲鼻付近を走りながら撮影されたgoogleストリートビュー画像では道路脇で無残に輪切りにされた自衛艦らしき灰色の艦艇、さらに沖合で解体順序を待つあの超高速船、テクノスーパーライナーオガサワラのわびしい姿が画面に映し出されていた。

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ストリートビュー撮影日は2年ほど前なのでもちろん現在これらの船の解体は完了しているだろう、しかし別の船の解体を見られるかもしれないと淡い期待を抱きながら向かったものの残念ながら訪問当日、ドッグは空きの状態だった。その代わり解体所近くの海辺での美しい瀬戸内の海を眺めることができた。一昨日の角島の海には及ばないもののそれでもなかなかの透明度。


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さて小笠原航路所要時間を劇的に短縮するとの期待を一身に集め開発された「テクノスーパーライナー」。ところがその燃費の悪さと燃料費高騰が重なり進水したものの一度も就航することのなかったあまりにも悲運な船。そういえば同じ理由で青森港で係留される姿がもの悲しかった高速フェリー「ナッチャンWorld」は今どうなっているのだろうか。そんなことを考えながら海辺を走っているとはるか対岸に係留されている白く流線型の船。なんとオガサワラはこんな所にいた。灰色の街並みが続くこの辺りで白い姿は非常に目立つ。先ほどの解体場から移動したということはとりあえず一旦は解体を免れたのだろうか。

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現在地の江田島、自分はこの地を訪れるまで当然ひとつの島なのかと思いこんでいた。しかし地図を開くと江田島、能美島と一つの島に二つの表記。実際には陸続きなのに一体どうしてなのだろうと帰宅後調べてみると江田島はもともと二つの島、埋め立てで両島が繋がる以前の名残なのだそうだ。


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ユウホウ能美工場。江田島の旧能美島側に建つ紡績工場。
古い民家が続く瀬戸内の島でも特異な存在。一瞬廃校かと勘違いしてしまいそうな瓦葺き木造二階建ての古びた建物が狭い敷地に詰め込まれている。中心部の古びた工場を取り囲むように埋め尽くすそれら木造建築群は繁殖する植物に覆われ半ば放置されているようにも見える。調べてみると明治操業。何度か社名を変えながら歴史を刻んできたものの二年ほど前操業を停止したのだという。

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この外観に惹かれ空き地に車を停めると歩いて工場を一周してみることにした。朝方広島地方の空を覆っていた雨雲は切れ始め天候は急速に回復、初夏とは思えない強い日射しが照りつける。
外周路に沿って歩き続けるものの残念ながら廃工場と道路の間には視界を塞ぐよう長い塀が続き内部の様子をうかがい知ることはできない。それでも時折現るわずかな壁の隙間から見える魅力的な空間。あの塀さえなければさらによく見えるのに、というわけで裏山によじ登り工場を見下ろしてみた。

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暑い。斜面を登ったことでさらに汗をかき廃工場に隣接するセブンイレブンに飛び込んだ。自動ドアが開くと同時に身体を優しく包み込むひんやりとした冷気に冷房の素晴らしさを実感。冷気を存分浴び生き返ったついでにアイスを買い込む。



さて現在地江田島からどのように東へ帰ろうか。
当初、橋梁を利用し島伝いに進もうと考えていたものの、工場に時間を取られ気がつくと昼を回ってしまった。時間がかかる島ルートはあきらめ瀬戸内海に平行する国道185号を利用することに決めた。かつて上陸した大久野島を横目に東へと走り続け途中で山陽道へ、心配していた渋滞にも遭遇せず午後遅く兵庫県に入った。

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赤穂の海辺にあった古い倉庫群。周囲を埋め尽くす草原、その一角から漏れるガサガサという音が気になって仕方がない。移動を続ける物音の正体は野良猫か何かだったのだろうか。西日に照らされる倉庫の姿を眺めているうちにやがて日が沈み始めた。近くのイオンで今夜の食材を買い込むとするか・・・

[続く]
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