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●2015年7月某日/嵐の毛無峠で過ごした夜.車中泊編

1508kenasitop.jpg真夏に平地で行う車中泊やキャンプは避けたいもの。
眠れぬ熱帯夜、蚊の襲来、暇を持て余す若者の大騒ぎなど安眠を妨害する要素が揃う季節。
これらを解決する唯一の方法は標高差を利用する事だ。
人里離れた山の上ならば大騒ぎとも無縁、また気温も低く快適に寝ることができる。

今回も行程の途中、今夜の寝床を決める時間が近づいて来た。
思いつくのは現在地新潟県からしばらく南下した山上にある長野県美ヶ原高原。
この場所、夏に何度か車中泊を行ったことがあり今回も進路をそちらに定め移動を続けた。
その道中、夕景でも眺めてみようかと立ち寄ったのが長野群馬県境の毛無峠だった。
当初車中泊するつもりはまったくなかったこの峠、縁あって一夜を過ごす事になった。
めまぐるしく変化する気象、眼下の花火大会、朝焼け、また予定外の早朝鉱山トレッキング等
要素たっぷりのうれしい誤算続きとなった夏の夜。


photo:Canon eos7d 15-85mm


 長野群馬県の毛無峠menashitoube01.jpg

PM17:20 毛無峠。

標高1,823m、吹き抜ける強風によって立木も生えない荒涼とした光景はいつ訪れても変わらない。
長野群馬県境の稜線に位置するこの場所、峠とは言うものの群馬側に通じる県道112号は閉鎖されているため実質的にこの場所で通行止めとなっている。そのためトラックを始めとする通過車両もなく、静かで落ち着いた雰囲気。


1508kenashimap.jpg

「群馬県」と書かれた大型標識が立つ空き地には一夏をこの場所で過ごすというバスの住人、テントを張っていたキャンプツーリング中の方など数人の人影。彼らと話しているうちに意気投合、美ヶ原のことはすっかり忘れ今夜はここ毛無峠で車中泊することに決めた。となれば夜が更けるまでやることもなく読書、あるいはコンビニで買っておいた夕食の準備などをしながら時間をつぶす。

長野群馬県の毛無峠0508menashitoube04.jpg


この峠の名を知らしめているのは朽ち果てた索道鉄塔群である。
索道とはいわゆる貨物用ロープウェイのこと。一見スキー場のリフト支柱のようにみえるこれらの鉄塔、毛無峠を挟み群馬県側へ下った場所にかつてあった小串鉱山から長野県側への輸送路として設置されたもの。閉山後、眼下の鉱山跡ではほとんどの施設が解体されたものの、不思議な事に索道鉄塔だけはいつまでも取り壊されることなく毛無峠のシンボルとなっている。

長野群馬県の毛無峠0508menashitoube02.jpg
長野群馬県の毛無峠0508menashitoube11.jpg


いつ訪れても霧に包まれている事が多い毛無峠、今日も群馬県側から気流に乗り絶え間なく上昇する霧が周囲を乳白色で覆い尽くす。遭難多発地帯と書かれた看板が至る所に設置されているように、平坦でこれと言った特徴がない峠周辺でいったんガスにまかれてしまうと現在地の特定は困難かもしれない。
霧に包まれたかと思えば今度は射し込む西日が周囲をオレンジ色に染め幻想的な光景を作り出す。絶え間なく天候が変化する毛無峠では飽きる事のない光景が続く。



長野群馬県の毛無峠0508menashitoube06.jpg
長野群馬県の毛無峠0508menashitoube07.jpg
長野群馬県の毛無峠0508menashitoube08.jpg
長野群馬県の毛無峠0508menashitoube09.jpg
長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡0508menashitoube10.jpg



さて肝心の気温はといえば予想通り先ほどまでの猛暑が嘘のように肌寒い。車内には最低限の野宿グッズを乗せてあるので今夜はシュラフにくるまり心地よく眠る事ができるだろう。
日本列島が記録的な猛暑に見舞われたこの日、眼下に広がる平地の中には39度に達した場所もあった。地上での熱気と上空の寒気による不安定な温度差が発達した積乱雲を作り出す。


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長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡と積乱雲0508menashitoube05.jpg



特に群馬県の山岳地帯は積乱雲のメッカ、見渡せば至る所真っ白な雲がふくれあがる様子を眺める事ができる。上昇を続ける積乱雲は対流圏へ達すると雲頂が水平へと広がり、「かなとこ雲」とよばれる形状へ変化していく。この頃はまだ、最強とも言われるかなとこ雲の美しい姿に思わず見とれてしまう余裕すらあった。
やがて遥か遠くから大砲の音のような低い雷鳴が毛無峠周辺に轟き始めた。

0508menashitoube12.jpg



気象庁のレーダーを確認すると浅間山方面にある積乱雲が集合を繰り返し巨大化しながら毛無峠に向かい北上しつつある。とはいっても積乱雲はまだ遠方、場合によっては一旦峠からふもとへ避難し雨をやりすごせばよいと考えていた。
しかし夕食準備のためしばらく空から目を離しているうち状況は悪化していた。陰った日射しにふと頭上を見上げると積乱雲上層部のかなとこ先端部がついにここ毛無峠上空に到達していた。

毛無峠の積乱雲0508menashitoube13.jpg
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全ての物を飲み込むかのようにムクムクとうごめく巨大積乱雲。雲の内部では雷による不気味な発光が繰り返される。凄まじいパワー。今さら逃げ出してもとうてい間に合わない、こうなればこの場所にとどまるしかない。



嵐は突然始まった。降り注ぎ始めた大粒の雨が地面を叩き付け、巻き上げられた飛沫によってあたりの光景が瞬時にかき消された。あわてて道具を片付け車の中へ逃げ込んだ。

0508menashitoube141.jpg


平地で遭遇する夕立ならば雲底までは少なくとも1000m、はるか上空での出来事だが毛無峠は標高1,823m。草木も生えない吹きさらしの稜線上で逃げる間もなく車ごとすっぽりと雷雲に覆われることになった。

日暮れと土砂降りの豪雨によってほとんど視界も効かない闇の中、稲妻によって周囲の様子が青白く照らし出されると、強風にバタバタと翻弄されるテントの様子が一瞬浮かびあがる。果たして中は大丈夫なのだろうか。

バチバチと車体を叩き付ける大粒の雨か雹、重い車を上下左右から揺さぶる暴風、絶え間なく轟き渡る耳をつんざくような雷鳴。放電と同時にフロントガラスがびりびりと振動するほどの大音量。至近距離に落雷しているのは確実だ。
気象でここまで恐怖を覚えたのはひさしぶりのこと。さらに勢いを増し吹き荒れる暴風によってゆさゆさ揺れ続ける車内で震えていると、突然助手席側のドアが外から開かれ吹き込む雨粒とともにずぶぬれの男が飛び込んできた。あまりの唐突ぶりに幽霊の出現かと思わず目を疑ったが、よく見ればテントの持ち主ではないか。必死に押さえ続けていたもののついに天幕が吹き飛ばされたという。天幕がなければただの蚊帳。とにかく車内に避難してもらい嵐が過ぎ去るのを待ち続けた。



30分後、来襲時と同じく前ぶれなく周囲は静まりかえった。
おそるおそるドアを開ける。車の天井から滝のように流れ落ちるたまった雨水に服を濡らしながら外に出ると、頭上にはほんのりと明るみが残る夜空が広がっていた。嵐は去った。

0508menashitoube15.jpg


至る所にできた深い水たまりを避けながら山の斜面を登っていく。そこには先ほどまでの暴雨風を物ともせず立ち続ける小串鉱山索道のシルエット。目が慣れるにつれ次第に無数の星が浮かび上がる。わずか15分ほど前まで峠に吹き荒れていた嵐が嘘のような静かな光景が広がっていた。


長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡夜景0508menashitoube16.jpg
長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡夜景0508menashitoube19.jpg
長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡夜景0508menashitoube17.jpg
長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡夜景0508menashitoube20.jpg
長野群馬県の毛無峠の雷0508menashitoube22.jpg
長野群馬県の毛無峠の雷0508menashitoube21.jpg

先ほど自分たちを震え上がらせたあの積乱雲は遥か彼方に遠ざかっていた。日没とともに力を失い消滅寸前の積乱雲は、音もなくわずかな放電をくりかえしていた。



嵐が去ってから一時間、車内で寝る準備をしていると遠い雷鳴のような音が毛無峠一帯に届き始めた。再びあの恐怖を味わう事になるのかと外を見渡すも星が広がる夜空には雲の塊は見当たらない。規則正しく響く音にもしやと思い、崖の縁から眼下を見下ろすと漆黒の闇にいくつも浮かび上がる丸い光の輪。長野県側の山裾で行われていた花火大会の音がここまで離れた毛無峠まで到達していたのだった。

長野群馬県の毛無峠から見た花火0508menashitoube24.jpg

地上で見れば轟音とともに夜空を覆い尽くす大迫力の大輪も、標高1800mから見下ろせば遥かに小さくどこか健気に感じてしまう。息を吹きかければ消えてしまう線香花火のわずかな火を上から優しく見守る気持ち、と言ったら大げさか。5分ほどの間を置きながら思い出したように打ち上がるこじんまりとした花火。おそらく長野県高山村あたりの夏祭りだろう。こういった田舎の花火大会も風情があってよいものだ。やがて時計が9時を指すと同時に最後の大輪が打ち上がり花火大会は終了した。

車に戻りシュラフに潜り込む。平地と違い心地よい涼しさ。花火といい毛無峠にを今夜の寝床に選び正解だったなと思いながら眠りについた。




長野群馬県の毛無峠にある小串鉱山索道跡朝焼け0508menashitoube25.jpg


AM04:15、毛無峠の夜は静かに明けた。昨夜の騒がしい喧噪が嘘のように凛と静まり返った朝。

やがて峠に日が昇り、眼下に広がる小串鉱山探索を行うこととなった。

続く
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