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●2016年3月某日/リニア建設予定地を訪ねる〜山梨県早川橋梁/南アルプストンネル接近編〜

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山梨県早川町山中の秘境、早川渓谷に建設されるリニア中央新幹線早川橋梁。
南アルプストンネル建設現場を見学しようと訪れたこの谷を訪れたのは1月のこと。
実際のリニアルートが通過する早川橋梁予定地と南アルプストンネル坑口は
非常口現場からさらに1kmほど渓谷を遡った奥地にあり
当日、閉ざされたゲートによって近づく事ができなかったのが唯一の心残りとなった。
リニア工事が本格的に始まれば現場周辺は封鎖されるはず、
その前に早川橋梁予定地を観察しようと再度接近を試みた。


追記/2017.07.早川非常口再訪

※JR東海のプレスリリース資料などから読み取った勝手な自由研究なので資料的価値はありません。
※本記事は訪問時のものです。現在の状況は異なっている可能性もあります。


リニア予定地長野県大鹿村編
リニア予定地愛知県名古屋市編
リニア建設予定地:岐阜県中津川編
リニア建設予定地:岐阜県中津川編2回目
リニア建設予定地:山梨県早川町/山梨駅編
リニア建設予定地:長野県飯田市/長野県駅編
リニア建設予定地:静岡県静岡市:前編
リニア建設予定地:静岡県静岡市:後編

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南アルプスと身延山地に挟まれた谷間にある山梨県南巨摩郡早川町。厳冬期の訪問から2ヶ月、気温も緩み山の中でもわずかに春の息吹を感じることができる。途中通過した新倉集落では前回は存在しなかった工事用宿舎らしき大きなプレハブ建設が始まっていた。

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早川町リニア南アルプストンネル早川橋梁建設予定地完成予想図1601linearhayakawamap10.jpg


富士川近辺では平坦な河原が広がっていた早川も山中へ進むにつれ次第に渓谷の様相を帯びてくる。川に沿って続く山梨県道37号南アルプス公園線を走り続け、ようやく青崩(あおがれ)トンネル入り口が近づいてきた。青崩トンネル直前で分岐する旧道へ車を滑り込ませ空き地に車を停める。谷の奥がリニア南アルプストンネル山梨工区および早川橋梁建築予定地となる。



車から降り谷底の古びた旧栃ノ木橋を渡り旧道を奥へと歩き始めた。身を切るような寒さだった1月とはうって変わり本日は暖かい日差しが降り注ぐ。

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前回「中央新幹線南アルプストンネル」と掲げられた看板に驚かされた山梨工区早川非常口建設現場。とは言ってもここが南アルプストンネル坑口という訳ではなく、ボーリング調査が行われていた坑道を利用し非常口となる斜坑。本日は扉は封鎖中、内部の様子を伺い知ることはでなかった。

リニア南アルプストンネル構造イラスト1602hayakawalinear010.jpg

非常口現場から徒歩で少し北上、前回はこの場所で道を封鎖する工事用ゲートによって足止めされてしまった。正直あまり期待することなく歩いて行くとゲートは撤去され道は開かれていた。期待に胸を膨らませながら旧道奥へと足を踏み入れた。



崩れ落ちた崖、散乱する落石、倒れ込んだ看板。まさに廃道。ふもとと奈良田を繋ぐ唯一の幹線路だった南アルプス公園線、5年程前頭上をバイパスする新青崖トンネルが開通した事で役割を終え旧道となった。

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落石散らばる古びた廃道を歩いていくと双眼鏡片手にじっと対岸を見つめる人影が見えた。服装からして工事関係者ではなさそう。話しかけてみるとカモシカをはじめとした野生動物の観察中とのこと。

リニア山梨県早川橋梁完成予想図1603hayakawab01.jpg

周囲の地形から推測するにJR東海の環境影響評価書で使用されているリニア早川橋梁完成予想図の合成用素材が撮影されたのはおそらくこの場所。こちらも完成予想図を適当に作ってみた。[上記]
アーチ型の巨大な橋がはるか高所で谷を横断している。この図のように早川橋梁建設予定地はまだ奥、早川に架けられている古びた吊り橋のほぼ真上となる。果たして吊り橋までたどり着く事ができるのか。

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やがてコンクリートで作られた無骨な洞門に到着。県道はかつて洞門内から伸びる青崖隧道によって北側と結ばれていたが現在は旧トンネル出入口は封鎖されている。コンクリートの支柱の間から外へと抜け出し旧道と別れた。ここからは山道となる。

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[A地点]
洞門から進んでいくと不思議な穴が現れた。これは簡易的な落石防止フードに覆われた人道。前回訪問時、望遠レンズで覗くと作業員がここに群がる様子が見えたので封鎖されているはず。ここまで進む事ができれば上出来と思いながら近づいていくと意外なことに工事の形跡もなく通行可能。まだ奥へと進むことが出来そうだ。

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非常に狭い穴蔵。頭をぶつけないよう背をかがめて歩き暗渠を抜け出した。さらに進んだあたりから後方を振り返る。断崖の下に見えるのは先ほどの旧道37号の洞門。


[B地点]
等高線の密度が最も濃いこの辺りは岩場を削り取って作られた山道となっている。傾斜したわずかなスペースは堆積した落石と降り積もった枯れ葉に覆われ、足を滑らせ転落しないよう慎重に進む。とはいえ落葉し木々が枯れる冬は探索に最も適した季節。夏場なら生い茂る樹木や草木によってまともに歩く事ができたかどうか。

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リニア中央新幹線早川橋梁南アルプストンネルイラスト1603hayakawamap1.jpg

[C地点]
やがて視界が開け平坦な土地に出た。この平地、かつては民家があったのではないかと思わせる開けた場所。周囲には時代を感じる古びた瓶など昔の残留物が転がっている。正面の谷には巨大な白い人工物が見える。
山中の秘密基地のような違和感あふれるその正体は発電用導水管。早川上流で取水された水は地中を走る導水管を伝い下流の早川第三発電所にて高低差を利用した発電が行われている。その途中、導水管は楠木沢が山を刻んだ部分で地上にその姿を現している。内部を轟々と音をたて水が流れているとは思えない静かな姿を山中にひっそり横たえていた。

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[D地点]
平坦な土地を歩いていくと、木々の合間から古びた吊り橋が現れた。
この吊り橋が今回の目的地、早川橋梁予定地の真下。ここまで到着できるとは思ってもいなかった。
支柱には東京電力と書かれていることから例の導水管の保守点検路として使われているものだと思われる。また楠木沢渓谷と書かれた古い案内看板も残されておりかつては登山者などが訪れていた時期があったのかもしれない。

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リニア中央新幹線南アルプストンネル建設予定地ドローン空撮2000hayakawad03.jpg

JRの環境影響評価書によればリニアは遥か頭上を吊り橋とほぼ平行に通過する。吊り橋東側が巨摩トンネル(仮称)、西側が南アルプストンネル(仮称)となる。両トンネルともまったく手の届かない山の斜面に坑口が設けられるため工事用取付路は巨大なものになるに違いない。


[2023年追記]
早川橋梁建設現場は急峻な斜面が迫る奥地。このような場所に一体どうやって資材を搬入し高さ150mに及ぶ早川橋梁を建設するのか、長い間疑問だった。最近になって工事用資料を見つけたので図面を参考に工事簡略図を描いてみた。
※理解しやすくするため構台向きや位置を変更・簡略化しています。多少の間違いは勘弁ください。

[下図:リニア中央新幹線早川橋梁工事予想図](下記画像をクリックすると拡大します)
リニア南アルプストンネル山梨県早川橋梁工事予想図2310linearhayakawabridge2.jpg
それによれば早川橋梁予定地両岸の急斜面に、複数の作業構台を接地、それらは巨大な2基のインクラインで接続される。南アルプストンネル坑口が設けられる早川右岸は川岸に多少の平地[C地点]があるため、ここを起点に搬入路が設けられそうだ。一方で左岸はそのような余地もないため、唯一のアプローチは工事用トンネルとなる。
巨大インクラインを2基設置するとは予想できず、早川橋梁計画の壮大さに驚かされた。



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早川橋梁予定地真下に架かる吊り橋を渡り左岸へと渡れば南アルプストンネルの坑口予定地を見ることができそうだ。さっそく渡ろうと一歩踏み出すも思わず足を止めた。倒れ込む欄干、穴をあけた薄い踏板、素人目にもあまりに危険で不安定な構造。
普段ならば躊躇せず足を踏み出すものの深い山中での単独行。さらにここまで深入りできるとは思わず、気がつくと洞門を超えてしまったので携帯も車の中。中程まで進んでみたものの、結局渡河をあきらめ引き返した。

リニア中央新幹線早川橋梁建設予定地1603hayakawa0204.jpg

先述したようリニア早川橋梁の建設位置は吊り橋のほぼ真上。導水管のさらに上を交差することになる。
南アルプストンネル、巨摩トンネル(仮称)、2つのトンネルに挟まれたアーチ構造の早川橋梁は地上高約150m、長さ400mに及ぶ巨大なものとなる。完成予想図によれば橋梁中央部のフード(覆い)は外されているためリニアの乗客はトンネルの暗闇から抜けた瞬間、早川渓谷の厳しい自然を目の当たりにする事になる。もっとも超高速のリニアが橋梁を通過するのにわずか2、3秒、乗客はカメラを構える暇もないだろう。



枯れた木の枝に遮られ頭上の視界が利かないため全体を見渡すべく眼下の河原へ降りてみる事にした。石や倒木を伝い崖を下り到着。渓流の音が響きわたる河原から見上げると踏板に穴のあいた吊り橋は風に揺られ続けていた。

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リニア中央新幹線南アルプストンネル建設予定地ドローン空撮2000hayakawad01.jpg

吊り橋周辺を徘徊してみたものの先日、長野県飯田市の天竜川橋梁で目にしたリニア中心線測量杭のようなものは何一つ見当たらなかった。
建設予定地は冬には厳しい寒さに包まれる人里離れた秘境の地。取り付け道路建設も困難に思えるこの場所に橋梁とトンネルは一体どのように建設されていくのだろうか。やがて工事が本格すれば現場に通じる小道もいずれ封鎖、巨大な早川橋梁や南アルプストンネルなどの大工事は人目に一切触れる事なく行われていくことだろう。


追記/2017.7 早川非常口再訪
2017年夏、山梨県早川町の奥地にある早川非常口建設現場を再度訪れた。
最後の訪問から一年半あまり、どこか変化は見られるだろうか。


夏本番。夏空と緑のコントラストが眩しい早川町山間部を流れる早川に沿って上流へと遡って行く。暑い。河原に下りて冷たい清流に浸かりたい気持ちを我慢し山道を走り続ける。道沿いには所々「中央新幹線工事車両速度注意」と書かれた立て看板が設置されていた。
早川と富士川との合流地点では河原に積み上げられた巨大な土の山をいくつも目にした。リニアの残土かと思いきやもちろんそんな訳はなく、現在建設中の中部横断道工事で排出された残土置場なのだそうだ。

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青崖トンネル完成によって旧道となった旧国道へと左折、しばらく進むと前回はなかった仮囲いが現れた。[上記写真]無数の警告看板にまさか通行止め、と思ったものの車が進むスペースは残されていた。
旧栃ノ木橋の欄干脇のいつもの場所に車を停車。工事は休みのようで作業音の変わりに周囲に響くのは渓流の音とセミの声。空き地には数台の車が停められていた。下の河原を行き来する人影が見えたので車は釣り人のものだろうか。

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古びた旧栃ノ木橋を渡りいよいよリニア非常口現場へ。久しぶりに見る現場で目を引いたのが、真っ白の壁面に書かれた「地図に残る仕事」というキャッチコピー。前回はなかったこのコピー、南アルプストンネル山梨工区を受け持つゼネコンの有名なスローガン。

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また仮囲いからはみ出すように鉄骨のようなものが組み立てられていた。工事素人なのであくまで想像だが形状からしてトンネル内の残土を地上へ運び出しトラックに積み込むコンベアのように見える。
正面ゲートは閉ざされ坑口の様子は見ることができず。ゲート脇には新海誠氏のイラストを利用した大判パネルが掲載されていた。

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しつこいようだが現場は南アルプストンネルへと続く非常口坑口であって、南アルプストンネル出入り口ではない。本線はさらに数キロ山道を遡った渓谷にある。

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現場の真ん中を抜ける旧道を歩き本線予定地へと続く旧道閉鎖地点までやってきた。工事が本格的に動き始めたことで現場を横切る道はさすがに封鎖されているだろうと思っていたが、管轄が違うためか道は封鎖されることなく進むことができた。旧青崖トンネル周辺は最近人の手が入ったような形跡もなく古びた路面は落石と夏草が覆っていた。

[追記]

山梨県早川町、リニア早川橋梁と南アルプストンネル坑口建設工区は入り組む尾根に覆い隠され、県道も廃道後は、青崖トンネルとして地中を通過するため、一般人の目には触れることがない奥地にある。今回は北側から沢屋や釣り師が使うルートを辿り、早川橋梁建設現場を目指す。

2023年山梨県早川町青崖廃道旧道2000hayakawad005.jpg
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上流地点で崖を降り入渓、切り立った谷底に立つ。断崖、巨岩、崩落が連続する相変わらずハードな地形。
岸壁に刻まれた旧道は崩落によって途切れ廃道となっている。後にトンネルと共に開通した新道も新トンネルが完成したことで廃道となった。巨岩を乗り越え、滑りおり、谷底を歩き続けると以前にはなかった人工的な光景が見えた。

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急斜面が続く早川左岸、リニア第四南巨摩トンネル坑口予定地付近に岩盤剥き出しの箇所がある。
おそらくコンクリート法面によって斜面を押さえつける斜面対策準備。初訪問の2015年以降初めて見た早川橋梁の具体的な工事。下部にトンネル坑口が設けられ、最終的には九州新幹線で話題となった三ノ瀬トンネルのような巨大法面が作られるのではないか。
密生していた木々が伐採されたことで早川渓谷の地形の険しさがより強調されている。厳しい環境化、人の目に触れることなく行われる断崖上での高所作業には驚かされる。



渓谷をじわじわと進み、ついに遙か先に吊り橋の一部が見えた[下記写真]。鳥居を思わせる主塔が逆光を浴びた秋の森で輝いている。

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やがて楠木沢との合流地点が現れ、懐かしの吊り橋に北側から到達。現状、特に通行規制はされてはいなかったが遠目に観察。2015年、初めて見た際もかなり古びていた吊り橋はさらに老朽化が進み、横板は落ち、手摺りは倒れ、廃吊り橋となっていた。

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吊り橋は早川両岸を繋ぐ格好の工事用連絡路として改修されているのかと考えていたのでこれは意外な結果だった。
少し引いたあたりから吊り橋頭上を見上げる。
例によって適当な橋梁完成予想イメージを合成[下記写真]。両岸から断崖が迫る狭い空に巨大なアーチ橋が架けられる。

リニア中央新幹線山梨県早川橋梁完成予想図2311linearyamanashi01.jpg

橋の両側にはフード(覆い)が接地されるため、長いトンネルを抜けた末、リニアの乗客が早川渓谷の光景を目にする時間はわずか1秒にも満たないのかもしれない。南アルプストンネル坑口側は尾根に阻まれ視認できず。

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現場から車で少し南下すると谷間が広がりわずかな平地が広がる箇所がある。前回工事中だった工事用事務所や宿舎と思われる施設が完成し稼働していた。

[了]



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